Again
「おい、出戻り」

「こら、楓、お姉ちゃんになんてことを言うの!」





寝転んでテレビを観ていた時、バイトから帰った楓が足でツンツンと葵を突きながら、気にしていることを言った。

恵美子はそんな楓の態度を叱った。





「もう、何すんのよ!」

「だって、出戻りじゃん」

「ふん」





毎朝、顔を洗うだけのすっぴん顔で、パジャマからジャージに着替える生活だった。



マンションを出てもう既に一か月が経っていた。ホテルを辞めること、離婚をすることを父親の義孝はびっくりした顔をしていたが、黙って受け止めていた。恵美子は母親らしく、離婚歴の付いてしまう娘を気遣い、心配していた。



仁は葵と何とか会いたいと、連絡を取り続けていたが、恵美子に頼んで、全て断って貰っていた。恵美子は、「もう嫌」。と小言を言い、嫌な役目を押し付けてしまったことが、葵は心苦しかった。





「葵、ゴロゴロしてないで、食事の後片付けをしなさい」

「はーい」

「そうだ、働け、出戻り」

「楓!」





この賑やかさが葵を救った。



葵は仕事を退職しても、のんびりとしている暇はない。借金はまだ返済しきれていないし、弟達の学費はあと一年ある。お金は飛んでいくばかりだ。



葵はキッチンで恵美子の隣にたち、食器を片づける。





「葵、仁さんに会って話し合わないとダメよ? そうしないと絶対に後悔するわよ」

「分かってるけど、会いたくない」

「じゃあ、離婚協議はどうするの、全く何が原因なのよ」

「離婚は離婚届けを送ってお終い」

「そんな、馬鹿な事がありますか」

「いいの」





子どものように膨れて片付けも中途半端で部屋に戻る。





「分かってるわよ。でも、会いたくないの」





荷物で一杯の部屋に葵は座り込んだ。



葵は、実家に戻ると、仁のいない時間帯を狙って荷物の整理をしていた。



この時ばかりは家具を全て仁側が用意してくれたことに感謝をした。



そして最後の日、リビングの上に結婚指輪と婚約指輪を置いて、想い出の少なかった家を出た。



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