Again
名波商事の会議のことで気が重くなっている所へ、また厄介なことが葵に起こった。





「予約をしている進藤ですが」





つばの大きな帽子に、サングラスをかけ、ロングのワンピースを着た女だ。芸能人のようなオーラがあり、周りの視線を集める。





「進藤さま、お待ちしておりました。お部屋にご案内致します」





フロントが傍に使えていたベルボーイにキーを渡し、案内をさせる。





「こちらに、名波……いえ、葵さんとおっしゃるスタッフがいると思うのよ」

「はい、えー立花、立花 葵でしょうか?」

「そうそう、その立花さん。私、友人なの。ほんの少しの時間で良いから部屋に呼んで頂けるかしら?」

「畏まりました」





進藤は、桃香だった。桃香は本名で予約を入れていた。また何の企みがあって葵に近づいたのか、それは分からない。



桃香が部屋に案内されて間もなく、部屋のベルが鳴った。

部屋の中から返事が聞こえ、ドアがあいた。





「立花でございます。私に御用だとお伺いいたしまして……!」

「お久しぶりね、葵ちゃん」





目の前にいる女性は、まぎれもなく桃香だった。全身、血の気が引いて行くのが葵は分かった。





「どうぞ、入って」

「……」





廊下で宿泊客と揉め事をしているのは良くないと判断した葵は、桃香の言う通りに部屋に入った。





「このホテル、気に入ったわ。以前から知ってはいたけれど、沖縄に縁がなくてね。良かったわ、来てみて」

「私に何の御用ですか?」





思わず低めの声で応答してしまう。怒りが出ないようにと頑張るが、声色に出てしまう。





「仁と離婚したんですってね」





にこやかに話していた顔は、真剣な表情に変わる。





「当然、ご存じだと思っていました。仁、いえ、名波さんとはまた仲をもどされたんですか? あ、余計なお世話でしたね」





これくらい言い返してもいいだろう。普通を繕うのは無理だ。

桃香の存在は、葵の嫌な部分をさらけ出させる。





「……パリでの勉強が終わって日本に帰国したの。名波商事が創立記念とかで、仁の姉の綾もニューヨークから帰国していた。私と綾はモデル仲間でね、仁と付き合ったのも、綾の紹介だった」





桃香はプレシャスホテルで葵に挑戦的であったが、この目の前にいる桃香は違っていた。





「綾の結婚式以来、お互いに海外暮らしが長くて、会う機会が無かった。そこへタイミング良く日本に二人が帰国していることを知って、会うことにしたの」





桃香は、沖縄にきた経緯を話し始めた。



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