Again
「ごちそうさまでした」
店を出て、仁は義孝に深々と頭をさげる。
「いや、たいしたことでは……私は葵が離婚をしたとき、会社を辞めようと思った。それが当たり前だからだ。でも、葵が結婚を決めたのは、家の借金と私の仕事のことを気に掛けてくれたからだ。葵は違うと言っていたが、一回の見合いで人生の伴侶を決める程、葵は器用じゃない。そんな一生を決めてくれたあの子に私が出来るのは、辞めない事だからだ」
「もちろんです。報告も受けています。仕事のやり方を若い社員に積極的に教えて下さっていると」
「いや、当たり前のことだ」
「……この大きな怪物のような会社を維持して経営していく、そのためには何でもしてきました。そんな私に葵は、初めて出会えた特別な存在です。だから、絶対に連れ戻します」
店の前で立ち話をしていた二人は、義孝が駅方面に向かって歩き出し、仁も後を付いて行った。
「聞いても良いか? 何故、うちの葵と見合いを?」
「すみません、汚い手を使いました。葵が夜のバイトをしている店で、取引先に接待を受けているときに会ったんです。私の一目惚れでした。それから、ホテルでパーティーがあった時に、酒に酔った私を介抱してくれたのも、偶然に葵だったんです」
「そうか」
「私は自分に自信がなかった。太陽のように笑う葵に、好きにはなっては貰えないと……それでも、手に入れたかった。だから調べました。そして、あとは……」
「私をグループ会社の社員として採用し、葵と見合いを設定した。当然、借金もあることは分かっていた」
「……はい」
「さすが次期経営者だ。まんまと君の策にはまったわけだ。君は、そのままでも十分女性にモテるだろう?」
「葵にはモテません」
「わはははは……それだけ好きなのか、葵が。なら、見合いまでの件は水に流そう。親は、子供が愛されていることが何より嬉しいものだからな」
「愛しています、葵を」
「おいおい、俺に言うなよ。葵に言ってやってくれ」
「そうでした」
話がうまい具合に終わった所で、駅に着いた。改札で義孝と別れるとき、
「連れて帰って来るまで、家には来るなよ」
と、義孝は言った。
ホームで電車を待っているときに、仁は居ても立っても居られず、潤に電話をかけた。
『仁、どうした』
「聞いてくれ、葵の居場所を教えてもらえたぞ、直ぐに手配だ。そうだ、来月支店会議があったな。それを沖縄でするんだ。急いで、ホテルは……」
『おい、おい、海外の支店も参加の年一の会議か? 人数が多すぎる、経費がかさむだろう?』
「構わない」
『話が良くわからん』
「葵が沖縄のホテルで働いているそうだ。そこで会議を開催する。それから、そのホテルの一室を法人契約しろ。一年でいい。早急に」
仕事の指示をしているかのように、的確に伝える。その口調は、意気揚々としている。
『葵ちゃんが沖縄に? 分かった明日一番で、スケジュールの調整をする……良かったな』
「ああ、いろいろとありがとう」
『後はお前次第だからな、頑張れよ』
「おお」
ホームに立っている男は、感情を表に出さないと決めた経営者ではなく、一人の恋する男だった。
店を出て、仁は義孝に深々と頭をさげる。
「いや、たいしたことでは……私は葵が離婚をしたとき、会社を辞めようと思った。それが当たり前だからだ。でも、葵が結婚を決めたのは、家の借金と私の仕事のことを気に掛けてくれたからだ。葵は違うと言っていたが、一回の見合いで人生の伴侶を決める程、葵は器用じゃない。そんな一生を決めてくれたあの子に私が出来るのは、辞めない事だからだ」
「もちろんです。報告も受けています。仕事のやり方を若い社員に積極的に教えて下さっていると」
「いや、当たり前のことだ」
「……この大きな怪物のような会社を維持して経営していく、そのためには何でもしてきました。そんな私に葵は、初めて出会えた特別な存在です。だから、絶対に連れ戻します」
店の前で立ち話をしていた二人は、義孝が駅方面に向かって歩き出し、仁も後を付いて行った。
「聞いても良いか? 何故、うちの葵と見合いを?」
「すみません、汚い手を使いました。葵が夜のバイトをしている店で、取引先に接待を受けているときに会ったんです。私の一目惚れでした。それから、ホテルでパーティーがあった時に、酒に酔った私を介抱してくれたのも、偶然に葵だったんです」
「そうか」
「私は自分に自信がなかった。太陽のように笑う葵に、好きにはなっては貰えないと……それでも、手に入れたかった。だから調べました。そして、あとは……」
「私をグループ会社の社員として採用し、葵と見合いを設定した。当然、借金もあることは分かっていた」
「……はい」
「さすが次期経営者だ。まんまと君の策にはまったわけだ。君は、そのままでも十分女性にモテるだろう?」
「葵にはモテません」
「わはははは……それだけ好きなのか、葵が。なら、見合いまでの件は水に流そう。親は、子供が愛されていることが何より嬉しいものだからな」
「愛しています、葵を」
「おいおい、俺に言うなよ。葵に言ってやってくれ」
「そうでした」
話がうまい具合に終わった所で、駅に着いた。改札で義孝と別れるとき、
「連れて帰って来るまで、家には来るなよ」
と、義孝は言った。
ホームで電車を待っているときに、仁は居ても立っても居られず、潤に電話をかけた。
『仁、どうした』
「聞いてくれ、葵の居場所を教えてもらえたぞ、直ぐに手配だ。そうだ、来月支店会議があったな。それを沖縄でするんだ。急いで、ホテルは……」
『おい、おい、海外の支店も参加の年一の会議か? 人数が多すぎる、経費がかさむだろう?』
「構わない」
『話が良くわからん』
「葵が沖縄のホテルで働いているそうだ。そこで会議を開催する。それから、そのホテルの一室を法人契約しろ。一年でいい。早急に」
仕事の指示をしているかのように、的確に伝える。その口調は、意気揚々としている。
『葵ちゃんが沖縄に? 分かった明日一番で、スケジュールの調整をする……良かったな』
「ああ、いろいろとありがとう」
『後はお前次第だからな、頑張れよ』
「おお」
ホームに立っている男は、感情を表に出さないと決めた経営者ではなく、一人の恋する男だった。