Again
ホテルは名波商事の会議のことで、支配人から料理長などが集まり、連日会議が行われていた。会議資料は修正に次ぐ修正で、何が最新の物なのか分からない状態にまでなっていた。
会議に慣れていないのだ。
「会議は二日間にわたって行われます。食事は海外からのお客さまに合わせて朝食、昼食、夕食と全て和食、洋食を用意します。外食をなさる場合は、その都度人数の変更をお知らせくださるそうです」
「はい」
会議とはいっても、休憩室でこぢんまりと話し合いをしているだけだが、アルバイトスタッフも真剣な表情で聞いている。
毎日のように支配人が名波商事からの要望を受けて、スタッフに報告していた。支配人はみるみるやつれて行き、自宅に帰らず、ホテルに寝泊まりする日も増えていた。それだけ名波商事という名が、大きいと言うことだ。
そんな支配人の様子を見ながら、葵は、迷惑な話だと思っていた。
「また、名波商事様から客室の一年契約を頂きました」
ホテルとしては滅多にない大口契約だ。スタッフからは歓声が上がる。
「おお」
企業の一年契約とあれば、ホテル側としても一定の宿泊が見込め、大歓迎だ。それも、名波商事とあれば規模も大きい。従業員から声が上がるのも当たり前だろう。
その中でも喜べないのが葵だ。会議に参加している葵は複雑な表情だ。
支配人の話を手帳に書きながらも、小さく溜息がでる。
(会議のある日だけを乗り切れば何とかなると思っていたのに、さらに年間契約? もう泣きたい)
「秘書の方から変更など連絡が入りましたら、また集まってもらいます。よろしくお願いします」
「はい」
「では、それぞれ持ち場について」
会議が終わり、がやがやと退出するスタッフたちも、顔が真剣だ。いつもの、のんびりとした空気もない。常に平常心だが、企業のトップが集まるとなれば、話は別らしい。
昨日、桃香はチェックアウトをした。葵は、もう一度部屋に呼ばれ、仕方なく出向く。
「お別れね……もう、葵ちゃんと仁と会う事もないわ。偶然なら別だけど、それも無いでしょうね。葵ちゃんには悪いけれど、私は釈明が出来てすっきりとした。これで、あなた達がどうなるかは2人次第。でもね、これだけは言えるの。仁はあなたを本当に愛しているわ。びっくりした。いつでも冷静で、感情を表に出さなかったあの人が、あなたの話をするときの表情。見せてあげたかったわ」
「もう、遅いです」
不貞腐れ気味に言う。
「遅いなんてことはないの。なんて、私から言っても説得力がないけれどね。綾には友達の縁を切られて、私も痛みが伴った。ここに言い訳に来たのも反省をしたから。後は仁に説明をしなくちゃと思っていたけれど、もう会わないわ。葵ちゃん、元気でね。あなたはとても可愛い、仁にお似合いよ。気持ちに素直になってね」
「……」
「さようなら」
桃香がトランクを持ちドアに向かうとき、葵が動いた。桃香は「自分で持つわ。ここでお別れ」と言って、一人、部屋を出て行った。
「何よ、自分だけすっきりしちゃって」
ホテルマンとして通すことが出来なかった。頭を下げることも、送りの挨拶も出来ていない。ただ、どうすることも出来ない複雑な感情が残っただけだ。
自分はすっきりしたかもしれない。あの時、ああしていたら、あの時、こうしていたらと、後悔が葵を襲った。
桃香が宿泊していた部屋で残された葵は、気持ちをかき乱され、どうしたらいいか分からなくなっていた。
会議に慣れていないのだ。
「会議は二日間にわたって行われます。食事は海外からのお客さまに合わせて朝食、昼食、夕食と全て和食、洋食を用意します。外食をなさる場合は、その都度人数の変更をお知らせくださるそうです」
「はい」
会議とはいっても、休憩室でこぢんまりと話し合いをしているだけだが、アルバイトスタッフも真剣な表情で聞いている。
毎日のように支配人が名波商事からの要望を受けて、スタッフに報告していた。支配人はみるみるやつれて行き、自宅に帰らず、ホテルに寝泊まりする日も増えていた。それだけ名波商事という名が、大きいと言うことだ。
そんな支配人の様子を見ながら、葵は、迷惑な話だと思っていた。
「また、名波商事様から客室の一年契約を頂きました」
ホテルとしては滅多にない大口契約だ。スタッフからは歓声が上がる。
「おお」
企業の一年契約とあれば、ホテル側としても一定の宿泊が見込め、大歓迎だ。それも、名波商事とあれば規模も大きい。従業員から声が上がるのも当たり前だろう。
その中でも喜べないのが葵だ。会議に参加している葵は複雑な表情だ。
支配人の話を手帳に書きながらも、小さく溜息がでる。
(会議のある日だけを乗り切れば何とかなると思っていたのに、さらに年間契約? もう泣きたい)
「秘書の方から変更など連絡が入りましたら、また集まってもらいます。よろしくお願いします」
「はい」
「では、それぞれ持ち場について」
会議が終わり、がやがやと退出するスタッフたちも、顔が真剣だ。いつもの、のんびりとした空気もない。常に平常心だが、企業のトップが集まるとなれば、話は別らしい。
昨日、桃香はチェックアウトをした。葵は、もう一度部屋に呼ばれ、仕方なく出向く。
「お別れね……もう、葵ちゃんと仁と会う事もないわ。偶然なら別だけど、それも無いでしょうね。葵ちゃんには悪いけれど、私は釈明が出来てすっきりとした。これで、あなた達がどうなるかは2人次第。でもね、これだけは言えるの。仁はあなたを本当に愛しているわ。びっくりした。いつでも冷静で、感情を表に出さなかったあの人が、あなたの話をするときの表情。見せてあげたかったわ」
「もう、遅いです」
不貞腐れ気味に言う。
「遅いなんてことはないの。なんて、私から言っても説得力がないけれどね。綾には友達の縁を切られて、私も痛みが伴った。ここに言い訳に来たのも反省をしたから。後は仁に説明をしなくちゃと思っていたけれど、もう会わないわ。葵ちゃん、元気でね。あなたはとても可愛い、仁にお似合いよ。気持ちに素直になってね」
「……」
「さようなら」
桃香がトランクを持ちドアに向かうとき、葵が動いた。桃香は「自分で持つわ。ここでお別れ」と言って、一人、部屋を出て行った。
「何よ、自分だけすっきりしちゃって」
ホテルマンとして通すことが出来なかった。頭を下げることも、送りの挨拶も出来ていない。ただ、どうすることも出来ない複雑な感情が残っただけだ。
自分はすっきりしたかもしれない。あの時、ああしていたら、あの時、こうしていたらと、後悔が葵を襲った。
桃香が宿泊していた部屋で残された葵は、気持ちをかき乱され、どうしたらいいか分からなくなっていた。