Again
「副社長、社長がお呼びです」

「分かった」





沖縄での会議開催は事後報告だった。厳しく問いただされることは、覚悟をしていた。

副社長室の向かいにある社長室のドアをノックする。





「入れ」





社長で父親の克典が返事をする。





「失礼いたします」

「そこに座れ」





克典に促され、応接セットのソファに腰を降ろす。テーブルを挟んで、向かいには克典が座っている。





「何を言われるのか分かっていると思うが、何故、沖縄なんだ?」

「……葵が、葵を連れ戻す為に会社を利用します」

「葵さん? 詳しく話せ」





克典も葵の名前が出てくるとは予想もしていなかったらしく、背もたれに寄りかかっていた体を起こした。





「俺は、葵を忘れられない。諦めきれないんだ。やっと気が付いた……しつこいくらいに立花の家に出向き、葵の居場所を教えて欲しいとお願いした。当然、最初は教えて貰えなかった。それでも諦めずに通っていると、お義父さんが教えてくれたんだ。葵が沖縄のホテルで働いていると」

「葵さんのお父さんがか?」





娘を持つ同じ父親として、こんなことをした男に、居場所を教えるなんて克典は考えられなかった。





「ごめん、父さん、俺は今、形振り構っていられないんだ。葵を連れ戻すためなら、どんな手も使う。悪い」

「お前は、最初から葵さんが欲しかったから見合いをしたんだろう? 母さんは大反対だったけれど、お前が自分から私に、何か要求をしたことはなかった。だから見合いをしたいと行った時は、親ばかだと思ったが、お前に手をかした。結果、お前がふがいないばかりに、葵さんを守りきれず、健気に支えてくれていた彼女を傷付けた。それで、落ち着いた暮らしを送っている彼女を振り回すのか?」

「そうだ」

「綾から聞いた話だが、お前が以前お付き合いをしていた女性が、葵さんとの結婚は自分との交際を隠すためのカモフラージュ、つまり偽装結婚だと言ったらしいな」

「姉さんが? なぜ知っているんだ?」

「その女性と会って、話を聞いたそうだ。その女性もまさか離婚をしたとは思ってもみなかったそうだ。綾から聞いた話によると彼女の嫉妬から、ありもしない話を作り上げ、全く関係のなかった葵さんを巻き添えにして、それを、なんだ、カモフラージュだと言ったそうだな」

「そうだ……そんなこと葵は関係ないのに……」

「綾が、葵さんを連れ戻さないと縁を切ると言っているらしい。母さんは絶対に許さないと言っているし、育て方を間違えたとか、俺が子育てに積極的じゃなかったとかいろいろと言いだしてな、お前は俺まで……今言った所で仕方がないが」





克典は、自分も愚痴を言っていると、言うのをやめる。





「縁が切れても、葵は連れ戻す」

「会社を利用し、葵さんを連れ戻すか……失敗したら、会社に籍はないと思え」

「覚悟は出来てる。 ありがとう、父さん」

「体外お前に甘いな、俺も。だが、本当にこれが最後のチャンスだ。葵さんにはっきり嫌われたら諦めろ。そして社も去れ。いいな」

「わかった」





社長室を出ると、心から父親である社長に感謝をした。



仁は離婚届けを提出し、それから両親に報告をしていた。母の理恵は泣き、葵が可愛そうだと息子の仁よりも気に掛け、仁を罵った。



何より理恵が許せなかったのは、葵が一番ショックを受けているはずなのに、パリでの出来事を繕わせたことだ。作り話をするのにどれだけ傷ついたのかと、さめざめ泣いた。



顔も見たくない、口も聞きたくないと言われ、離婚して一年が過ぎているのに、いまだに許して貰えていない。



克典は許してやれと理恵に言っていたが、かわいがっていた葵を傷付けたことが許せないと、決して意志を曲げなかった。





「がんばるぞ」





クールで物事に動じない仁だが、気合の入り方は子供の様だ。そんな姿は誰にも見せるなと潤は釘をさしていた。



< 146 / 163 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop