Again
仁が出て行った社長室では、克典が電話をかけていた。
「ああ、私だ。名波だ。……ああ、堅苦しい挨拶はいい、営業の立花君を呼んでくれないか?」
克典は葵の父、義孝に話をしたくて、連絡を入れた。
義孝は、外回りをして直帰の予定だった。支社から連絡を受けた義孝は、了承の返事をして、克典と義孝は二人の離婚後初めて会う約束をした。
「お連れ様がお見えです」
座敷の外から女将の声が聞こえ、克典は返事をする。
「どうぞ」
「社長、遅れまして申し訳ございません」
座敷に入るなり、約束をしていた時間に遅れたことを義孝は詫びた。
「いやいや、こちらへ、お入りください」
「はい、失礼します」
個室の和室には、生け花が飾られ庭は池があり、月をうつし出していた。
「立花さん。今日は急にお呼び立てして申し訳ございません」
一旦頭を下げる。
「いや、社長、止めて下さい」
克典は更に、座布団を脇に外すと、義孝に向かって平伏した。
「今日は、名波商事の社長ではなく、一人の父親としてお呼びしたのです。本来なら、私が出向かなければならないのですが、お呼びたてして、申し訳ありません。大人同士が決めた離婚です。親は口出しをすまいと思っておりましたが、仁のしでかしたことで、葵さんを傷付けた。更に、立花さんのお宅に連日押しかけ、葵さんの居場所を教えてほしいなどと迷惑なことをしまして、親として深くお詫び申し上げます」
「止めて下さい! 社長!」
義孝は堪らず、腰を上げ、平伏している克典の傍に寄った。
「それだけではなく、葵さんの居場所を教えて下さるとは……同じ娘を持つ父親として、出来ることじゃない。それなのに、寛大な配慮を不肖の息子にして頂き……本当にありがとうございました」
「社長……」
「息子には、葵さんが拒否をしたら、身を引き、社を去るようにと申しつけました」
「何も、そこまでは……」
「仁にも葵さんと同じ痛みをさせなくては、私の……親としての気がすみません」
額を畳に押し付けんばかりに下げている克典の横で、義孝は困り果てていた。いくら娘の元夫の父親であっても、社長である人だ。
「社長、仁さんは葵を本当に想ってくれているのだと分かったから教えたんですよ。起きてしまった出来事はもう仕方がありません。でも、父親は娘のことを惚れてくれている男を邪険には出来ないものですよ、違いますか?」
「……」
「私は、経営者として失敗し、娘に苦労を掛けた。だから幸せになる道を作ってあげる事しか出来ないんですよ。仁さんは葵を幸せにしてくれる、葵は仁さんのことが好きなんです。だから許せなくて別れた。葵は離婚をしたことを、後悔していると思っているんですよ、私は」
「立花さん」
「後は、二人に任せましょう。さ、今日は、ご馳走になりますよ」
「もちろんです」
克典が畳に置いてある手に義孝は手を添え、力強く握った。
「ああ、私だ。名波だ。……ああ、堅苦しい挨拶はいい、営業の立花君を呼んでくれないか?」
克典は葵の父、義孝に話をしたくて、連絡を入れた。
義孝は、外回りをして直帰の予定だった。支社から連絡を受けた義孝は、了承の返事をして、克典と義孝は二人の離婚後初めて会う約束をした。
「お連れ様がお見えです」
座敷の外から女将の声が聞こえ、克典は返事をする。
「どうぞ」
「社長、遅れまして申し訳ございません」
座敷に入るなり、約束をしていた時間に遅れたことを義孝は詫びた。
「いやいや、こちらへ、お入りください」
「はい、失礼します」
個室の和室には、生け花が飾られ庭は池があり、月をうつし出していた。
「立花さん。今日は急にお呼び立てして申し訳ございません」
一旦頭を下げる。
「いや、社長、止めて下さい」
克典は更に、座布団を脇に外すと、義孝に向かって平伏した。
「今日は、名波商事の社長ではなく、一人の父親としてお呼びしたのです。本来なら、私が出向かなければならないのですが、お呼びたてして、申し訳ありません。大人同士が決めた離婚です。親は口出しをすまいと思っておりましたが、仁のしでかしたことで、葵さんを傷付けた。更に、立花さんのお宅に連日押しかけ、葵さんの居場所を教えてほしいなどと迷惑なことをしまして、親として深くお詫び申し上げます」
「止めて下さい! 社長!」
義孝は堪らず、腰を上げ、平伏している克典の傍に寄った。
「それだけではなく、葵さんの居場所を教えて下さるとは……同じ娘を持つ父親として、出来ることじゃない。それなのに、寛大な配慮を不肖の息子にして頂き……本当にありがとうございました」
「社長……」
「息子には、葵さんが拒否をしたら、身を引き、社を去るようにと申しつけました」
「何も、そこまでは……」
「仁にも葵さんと同じ痛みをさせなくては、私の……親としての気がすみません」
額を畳に押し付けんばかりに下げている克典の横で、義孝は困り果てていた。いくら娘の元夫の父親であっても、社長である人だ。
「社長、仁さんは葵を本当に想ってくれているのだと分かったから教えたんですよ。起きてしまった出来事はもう仕方がありません。でも、父親は娘のことを惚れてくれている男を邪険には出来ないものですよ、違いますか?」
「……」
「私は、経営者として失敗し、娘に苦労を掛けた。だから幸せになる道を作ってあげる事しか出来ないんですよ。仁さんは葵を幸せにしてくれる、葵は仁さんのことが好きなんです。だから許せなくて別れた。葵は離婚をしたことを、後悔していると思っているんですよ、私は」
「立花さん」
「後は、二人に任せましょう。さ、今日は、ご馳走になりますよ」
「もちろんです」
克典が畳に置いてある手に義孝は手を添え、力強く握った。