Again
Again
あれから一か月が経った。



心労とは恐ろしいもので、葵はあれから熱を出してしまい、仁とは会わずじまいだった。



仁を以前の様に忘れることなんか出来ないでいる。むしろ、もっと深く心に刻みこまれている。こんなに心をかき乱して帰って行った仁を、また許せない葵だ。





「今週末、名波さまがご予約をなさいました」





事務室で予約客の確認をしていて、そう報告を受ける。



仁は約束通り、毎週末に予約を入れ沖縄の葵に会いに来ていた。



葵の胸は高鳴った。仁に会える。そう思っただけで、ドキドキが止まらない。



週末は出勤をしている。また、隠れるように仕事をするか、それとも普通にするか。それとも自分から会いに行って、話をするか。毎週のことなのにまだそんな事を考えている。



恵美子に電話をした日の夜、父の義孝から電話があった。全て仁から聞いたのだと。婚姻関係にあった娘の父親に話すことは、勇気がいったことだっただろうと言った。義孝は全て知ったうえで、仁とちゃんと話をすること、そして恵美子同様、素直になる様に言って、電話を切った。





「離婚届けを叩きつけたのに、いとも簡単にそれが崩れるのはなんだか悔しい」





複雑な気持ちが絡み合って、葵は素直になれないでいた。 ゆっくりではあるが、葵と仁の仲は進展しているのは間違いない。



仁がまともに沖縄に行けたのは最初だけで、出張や会議と目まぐるしい忙しさで、潤に与えられていた休みも返上しなければならない有様だった。仁の苛立ちがピークに達して、休みの調整をつけ、次に沖縄に行けたのは一か月を過ぎていたころだった。その時も仕事を持ち込み、部屋でひたすら仕事をしていた。

 葵の邪魔はしてはいけないと思う反面、話をしたいと思い、ホテル内をうろうろとしながら、葵の姿を探した。だが、偶然でも会うことが出来なかった。



 葵の表情はまだ硬く、笑顔がみられなかった。それでも仕事が終わって帰るときは、「帰る」との報告をわざわざ仁の部屋まで言いに来ていた。少なからず、前進していると言うことだ。



 部屋へ招き入れ、二人は会話をする。溝を埋めるには十分ではなかったが、結婚生活よりもお互いを身近に感じていた。





「なぜ休みがない」





不貞腐れて潤に問い詰める。





「毎週末に沖縄に行きたい。会議以来月一ペースだぞ。約束が違う。葵が待ってる、会わせないつもりか?」

「俺だって努力してるのよ。仕方ないだろう」

「ふん、無能な秘書だ」

「なんだと?」





潤に八つ当たりをする。毎日のように休みを要求する仁に、潤は困り果てていた。



そして葵は、いつしか仁が来るのを待ちわびるようになっていた。



やっと休みが出来て沖縄に来たこの日、葵は仁を海に誘った。





「ここから少し行った所に、素敵な砂浜があるの、行ってみる?」

「もちろん」





ホテルから歩いてすぐの場所に葵の気に入った場所がある。今でこそ行く機会が減ったが、沖縄に来た当初は、毎日のように訪れていた。



砂浜を歩く葵の手を、仁は繋ぐ。砂で足を取られながら、ゆっくりと波打ち際まで歩いて行った。繋いだ手に、指輪があたる。





「指輪……」





葵は視線を仁の指に移す。





「どうしても外せなかった」





仁は、繋いだ手を口元に持って行き、葵の指にキスをする。

葵は、繋いだ手をやんわりと離す。





「葵?」





仁は、不安になった。





「離婚を決めた時……」





仁に背を向け、歩き始める。仁はその後をついて行く。





「何度も会うのを拒否したのは……」

「なぜなんだ?」

「仁さんに会ったら、気持ちが揺らいでしまうのがわかってた。何もかも許してしまいそうな自分がいたの……仁さんが好きだったから……でも、どうしても許せなかった。だから……!」





仁は前を歩く葵の腕をつかみ、強く引き寄せた。そのまま抱きしめて、葵の口をキスで塞いだ。





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