Again
次に仁がホテルを訪れた時は、体調が悪く、顔色が悪かった。





「名波様だが、体調がすぐれない様子だった。顔色が悪くていらっしゃる」





仁の対応は、責任者として支配人が担当になっていた。チェックインする際に、様子がおかしいと、気になっていた。葵が報告を受け、心配になる。





「名波様が?」

「少し様子を見ておいた方がいいだろう」

「畏まりました」

「毎週のようにお越しいただいて、当ホテルを余程気に入ってくださっているんだと思うが、無理は禁物だ」

「そうですね」





心配した葵は、仁の宿泊室に向かう。





「どうしたのかしら」





心配でつい走りそうになる気持ちを抑える。部屋の前に来て、チャイムを鳴らすと、返事がなく、もう一度鳴らす。すると、ゆっくりとドアが開いた。





「葵……」

「仁さん!」





びっしょりと汗をかき、葵に倒れ込むように寄りかかった。





「大丈夫? 私の肩に腕を回して」





小柄な葵に、仁の体重がかかると、一瞬ぐらつく。しかし、しっかりと仁を支え、ベッドに連れて行く。ゴロンと寝転んだ仁の額に手をあてると、





「すごい熱! 病院に行こう、この熱じゃだめよ」

「いい……葵が傍にいてくれれば……それでいい」

「こんな時に何を言ってるの? もう……すぐに戻ってくるから待ってて」





仁は答えることも出来ず、頷く。

葵は、部屋を出ると、一目散に事務室に行く。支配人が待っていた。





「どうだった?」

「かなり体調が悪いようです。熱があります。救急箱と、薬を」

「病院は? 病院に行った方がよくないか?」

「それが、病院は行かないとおっしゃられて。とりあえず、薬と体温計を持って行きます。マスターキーを貸してください」

「分かった」





水に氷枕、薬と考えつく物を用意して、再び仁の部屋に行く。マスターキーで鍵を開け、中に入る。





「仁さん、着替えましょう」

「う……ん」





背中を支えて起こし、タオルで汗を拭く。アメニティの浴衣を着せ、ベッドに寝かせる。

タオルで額の汗を拭きながら、体温を測る。





「こんなに体調が悪いのに、何故来たのよ」

「葵がいるから」

「どこにも行かないんだから、無理して来なくたって。あ、測り終わったようね」





電子音が鳴り、仁から体温計を取り出す。表示された数字を見て、葵は驚く。





「38度もあるじゃない、大変」





唸っている仁に、慌てる葵。傍にいて看病してやりたいが、自分は勤務中だ。





「仁さん、とりあえず薬を飲んでくれる? ごめんね、仕事に戻らないといけないの。時間を見ながら様子を見に来るけど、苦しかったら、必ずフロントに電話をするのよ?」

「ああ……」





グラスに水を入れ、薬を仁の口に入れる。グラスを口元に持って行き、飲ませて寝かせた。



仕事の合間をぬって何度か様子を見に来たが、仁の容態は回復の兆しが見えなかった。



仕事を終え寮に急いで帰った葵は、冷蔵庫にある物で料理を作り、自分の着替えなどをボストンバッグに詰めた。





「とりあえずこれでいいわ」





寮からホテルに戻ったが、スタッフに見つからないように入るのが大変だった。



キョロキョロと辺りを見て、スタッフがいないことを確認すると、腰を低くして鍵を解除する。部屋の中は、スタンドの灯りだけで、仁は相変わらずの様子だ。





「仁さん、どう?」

「葵か?」

「そうよ、少し食事をしましょう。薬を飲まないといけないし」

「分かった」





苦しそうな仁は、ゆっくりと体を起こす。葵は、肩からブランケットを掛けた。



葵は、おかゆとキャベツの煮浸しを作り、おしんこ、梅干しを持参した。



備え付けのキッチンでおかゆを温め、タッパーから梅干しとおしんこを出す。食器棚からお椀と小皿を取り出して、盛り付ける。

おかゆをトレイにのせ、仁に渡す。





「少しでいいから食べて」

「ありがとう」

「急いで作ったから、味の保証はないけど」





スプーンを仁に渡して、葵は、ベッドの縁に腰を下ろした。





「ああ、おいしい」





仁は、口におかゆを入れると、うっとりした顔をする。





「おおげさね、ただのおかゆよ」





くすっと笑い、梅干しをおかゆの中に入れる。

仁は、病人とは思えない速さで平らげ、薬を飲んだ。





「ごちそうさま」

「お粗末様でした」

「葵が毎日作ってくれていたご飯を、一緒に味わって食べれば良かった」

「どうしたの? 急に」

「どんなにうまいご飯でも、一人じゃ味気ない。分かってたのにな……」

「……さあ、横になって」





切なげに葵を見る仁に、どう答えていいか分からず、話を逸らした。

暫くすると、仁は寝息を立てて眠り始めた。やっと薬が効いて来たのか、荒かった呼吸も、穏やかになりつつあった。





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