Again
醜態をさらしても、結婚を破棄する気がない仁に、葵の逃げ場はないのだと、再確認した。どんなことをしても、結婚は避けられない。あとは、話を進めて欲しいと、葵が伝えるだけだ。

落ち込んでいても、ジタバタしても、仕方がないと、腹をくくりいつもの様に振る舞った。夕飯時、家族が揃って食事を始める前に、義孝に決めた覚悟を告げた。





 「お父さん、あたし、このお見合いを 受けることにした。だから、部長さんにそうお返事して? お話を進めて下さいって」





葵は、箸を持っていた手を、膝の上に置いて背筋を伸ばした。それは、強い決心が現れているからだ。





 「あ、葵! お父さんはな!」



義孝は、思わずテーブルに両手を付き、椅子が倒れんばかりに勢いよく立ち上がった。





 「いいの!……もう決めたことだから」





そんな義孝を、葵は強い視線で見る。二人の様子に、双子と恵美子は、おろおろとしている。





 「姉ちゃん、良いのかよ。見合いだぜ」





弟の楓がたまらず言う。





「だって、相手は大企業の副社長だよ? 将来はグループを背負って立つ社長になる人だよ? 左団扇で生活できるのよ? こんないい話、棒に振ることはないでしょ?」





葵はいつものように笑って答えた。





「本当にそう思っているのか?」



義孝はドスンと腰を下ろして、グラスに入っていたビールを一気飲みする。



「そうよ、お父さん。お父さんが部長さんに言わないなら、あたしが直接言うからいいわよ」

「葵」



堪らず恵美子が口を出す。





「もう、覚悟を決めたんだからさ、この話はこれでお終い。いただきます」





葵は涙をこらえるので精一杯だった。強気で話さなければ崩れそうだった。

葵にだって結婚の理想があった。女性ならば当たり前だろう。そんな夢も理想も全て無くなる。家族の犠牲になるなどとは思ってもいないけれど、女の使い道はここにあったかと、弱さを実感していた。

あの夜、はっきりと結婚は出来ないと言うつもりだったのに、とんでもないことが起り、仁の人格にふれ、気持ちはまだないまでも、全く嫌じゃなかったのも事実だ。家族の事を思ってが一番だけれど、幸せになれるかもしれないと、頭の片隅によぎったのも事実。

覚悟はできた。こうなったら日本一素敵な花嫁になろうと決心した。

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