Again
葵、久美共にお酒は強く、つまみもそこそこに二杯目に入った。飲むペースは速く、水の様に酒を飲む。



 「でも急だね。何かあった? うん、おいしい。これ」





 大好きなバーニャカウダに舌鼓しながら、久美が聞いた。





 「特に……」

 「特に、か……きっかけは何であれご縁があったんだね。でも、幸せそうに見えない」





  きゅうりにソースを付けかぶりつき、上目使いで久美を見た。





 「おっと、葵の必殺上目使い」





葵は身長が152㎝。最近の女子では小柄だ。あと5センチでもあれば、世界が変わるのにと思っているが、成長は止まり、後は縮んでいくだけだ。そんな葵だから、ホテルでも立ち話をすると自然に上目使いになる。目が大きく、黒目も大きな葵はそう言われるようになったのだ。そして左目の下にある泣き黒子がチャームポイントだ。





 「これで、見合い相手を落としたわけじゃないからね。はあ~、気が重い。すみません! 同じものをおかわり!」





 カウンターに向かってグラスを持ち上げ、お酒のおかわりを催促する。





 「いくらお酒の強い葵でも、何も食べずに、かけつけ三杯は良くないんじゃないの?」

 「ちゃんと食べるわよ。カキフライでもどう? すみません! カキフライも追加で。心が重すぎるから、久美に吐き出してもいい?」

 「そうして、お客様の秘密は厳守します」





 久美は、姿勢を正してホテル形式のお辞儀をして見せた。





 「私の父は会社を経営していたんだけど、それが倒産したのがちょうど二年前なの。家族一丸となって今、借金を返しているんだけど、今まで派遣でしか仕事が見つからなかった父が、ようやく社員の口を見つけて、安定してきた矢先に、世話好きの部長が見合い話を持ってきたわけ。一度は断ったのだけど、父の立場が険しくてね。そんなことで結婚なんか決めたくはないし、そこまで私もお人好しじゃない。 でもなんとなく、きっかけが欲しかったのかな? 疲れたのかなぁ? 彼氏が欲しかったのかなぁ? 温もりが欲しかったのかな? まあ、そのどれかよ。それで決めたの、結婚。お相手は超が付くほどのイケメンだしね。相手にも望まれたし、女性としては幸せなのかもね」



葵は、店の天井を見上げて、一つため息を吐いた。その時に、仁の顔が浮かんだのは、何故なのだと、ふと思った。

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