Again
本心は、家の為、ようやく就職出来た父の為の決意だが、久美には、自分を犠牲にしているとは思われたくなかった。
「大変だったんだね。本当に辛い事がある人程、明るいっていうけど、葵を見ているとそうかもって思うな」
真実は話していない。それでも葵は家族以外の人に話をきいて欲しかったのだ。ほんの少しでも気持ちが楽になったのは本当だ。
「でも、不安もある。相手の人を結婚してから知っていくんだからね」
「私だったら、喧嘩して即、離婚! てなりそう」
「あ! それいいかも。わざと嫌なことして嫌われるとか、料理を不味くつくるとかね! それで三行半を叩きつけられて、晴れて独身!」
既に醜態を見せている葵は、もう降参状態だ。
「そんなこと出来っこないのに」
葵を良く知る久美は、鋭く指摘する。
「でもぉ、実際、経験もあんまりないし、それにここ数年は全く、彼もなく……ちゃんとプロポーズしてもらってから結婚したかったよー。だってさあ、普通は葵さんと結婚させて下さい。って彼が土下座して頭を下げるじゃない? それから猛烈な反対をされる。二人は、反対されればされるほど、絆を深めていくの」
「いい年して妄想? 現実を見なさい」
夢心地に話す乙女な葵を、呆れた目で見ながら、何時ものことだと酒を飲み久美は聞いていた。
「でも、それでいいの? 広報部にだって葵のこと好きな人がいたんだよ? 結婚だよ? 葵の事情も分かるけど、嫌いになったから、はい、別れました。って簡単には行かないんだから」
「ちょっと、私のことが好きな人って誰? ねえ、ねえ」
身を乗り出して、その人物の名前を聞こうとした。
「それは言わない。私が葵のことを好きな人の気持ちを言ってどうするの? とっても大切なものなんだから。人を好きになる気持ちって」
「そうだけど……。私のことを好きな人がいるって聞いたら知りたくなるでしょ? 普通は、だったら教えないでよ」
「そりゃそうだ。ごめんごめん」
仕事に熱中するあまり、周りを全く見ていなかった葵は、同じ部署で自分を好きだと思ってくれている人がいるとは知らなかった。結婚を決めてしまった今となってはもうそれを知っても仕方がないことだ。
久美との話はしんみりしたものから、だんだんと下品になり、最後は何を話しているのか分からなくなり、笑っているだけだった。今の葵にはそれが必要だった。何もかも忘れたい。今は、現実とは向き合いたくないからだ。
葵と久美は二人でかなりのお酒を飲んだ。葵はつまみを食べずに飲んでいたのが効いて、この位では足元はふら付かないのだが、帰るときにはおぼつかない足取りになっていた。
「ちょっと、帰れる? 私とは反対方向だから、送っていかないわよ」
久美は会計を済ませ、テーブルに戻ると、ふらつく葵を支えた。
「大変だったんだね。本当に辛い事がある人程、明るいっていうけど、葵を見ているとそうかもって思うな」
真実は話していない。それでも葵は家族以外の人に話をきいて欲しかったのだ。ほんの少しでも気持ちが楽になったのは本当だ。
「でも、不安もある。相手の人を結婚してから知っていくんだからね」
「私だったら、喧嘩して即、離婚! てなりそう」
「あ! それいいかも。わざと嫌なことして嫌われるとか、料理を不味くつくるとかね! それで三行半を叩きつけられて、晴れて独身!」
既に醜態を見せている葵は、もう降参状態だ。
「そんなこと出来っこないのに」
葵を良く知る久美は、鋭く指摘する。
「でもぉ、実際、経験もあんまりないし、それにここ数年は全く、彼もなく……ちゃんとプロポーズしてもらってから結婚したかったよー。だってさあ、普通は葵さんと結婚させて下さい。って彼が土下座して頭を下げるじゃない? それから猛烈な反対をされる。二人は、反対されればされるほど、絆を深めていくの」
「いい年して妄想? 現実を見なさい」
夢心地に話す乙女な葵を、呆れた目で見ながら、何時ものことだと酒を飲み久美は聞いていた。
「でも、それでいいの? 広報部にだって葵のこと好きな人がいたんだよ? 結婚だよ? 葵の事情も分かるけど、嫌いになったから、はい、別れました。って簡単には行かないんだから」
「ちょっと、私のことが好きな人って誰? ねえ、ねえ」
身を乗り出して、その人物の名前を聞こうとした。
「それは言わない。私が葵のことを好きな人の気持ちを言ってどうするの? とっても大切なものなんだから。人を好きになる気持ちって」
「そうだけど……。私のことを好きな人がいるって聞いたら知りたくなるでしょ? 普通は、だったら教えないでよ」
「そりゃそうだ。ごめんごめん」
仕事に熱中するあまり、周りを全く見ていなかった葵は、同じ部署で自分を好きだと思ってくれている人がいるとは知らなかった。結婚を決めてしまった今となってはもうそれを知っても仕方がないことだ。
久美との話はしんみりしたものから、だんだんと下品になり、最後は何を話しているのか分からなくなり、笑っているだけだった。今の葵にはそれが必要だった。何もかも忘れたい。今は、現実とは向き合いたくないからだ。
葵と久美は二人でかなりのお酒を飲んだ。葵はつまみを食べずに飲んでいたのが効いて、この位では足元はふら付かないのだが、帰るときにはおぼつかない足取りになっていた。
「ちょっと、帰れる? 私とは反対方向だから、送っていかないわよ」
久美は会計を済ませ、テーブルに戻ると、ふらつく葵を支えた。