Again
葵は、ダイニングバーを出ると、ラジオ体操のように両手を広げて、空気を思い切り吸い込んだ。





 「タクシーで帰ってね。危ないから」





 葵の様子が心配な久美は、タクシーに乗るように葵に言った。





 「分かった。そこでコーヒーを飲んでからにする。直ぐに乗ると酔っちゃうかもしれないから」

 「そう、付き合ってあげられないけど、気を付けてね。じゃ、また明日ね。お疲れさま」

 「今日はありがとう。明日からまたがんばる。お疲れ~」



 両手を大きく振り、久美にバイバイをする。葵は相当気分が良くなっていた。

 落ち込んだ気分も同僚との他愛ない会話で晴れやかになった。久美の言う通り、タクシーで帰ろうとしたけれど、車酔いをしそうだ。まだ、カフェも空いている時間で、ダイニングバーの少し先にカフェがあったはずだ。そこを目指して歩くことにする。気分がいい葵は、小さな声で鼻歌を歌っていた。足元を、若干ふらつかせながらバッグを振り回して歩く。どうみても女の酔っ払いだ。





 「ふふふ~ん♪」





 道の端を歩いていたはずだが、葵の前に人の影があり、避けるが、また、前がふさがった。





 「ごめんなさい」





 葵はそう言って、人影から避けるも、また前がふさがれた。そもそも葵は身長が低いために、前をふさがれている人の丁度胸元当たりが、頭になった。





「もう、なんなの!?」





 いったいなんなのかと、若干イラついて顔を上げると、そこにいたのは葵のお見合いの相手、結婚を決めた相手、名波 仁だった。





 「!」

 「抱っこをしようか」





 ポケットに両手を入れ、葵の目線の高さまで前かがみになって視線を合わせた。





 「……」





 葵は、目をしばつかせ、ほろ酔い気分は、仁の登場でぶっ飛んだ。





 「もう、帰り? 遅いし送って行こう」





 何で、こんな所、こんな時間に、仁がいるのだろう。それは不思議ではないかと思い直す。ここは都心部、会社も確か近かったはず。それなら偶然あっても不思議ではない。仁と視線を合わせないように、考えをめぐらす。





 「えーっと、あの良いです。タクシーで帰るつもりでしたから」

 「俺も車だし、酔っている状態の君に会って、そのまま一人で帰すわけにはいかないよ。送ろう」

 「ええっと、ちょっと、そこに……よろうかなあ? と思ってまして」



 葵は少し先に見えるカフェの看板を指さした。何とか、帰ってもらう術はないかと、言ってみる。





 「コーヒー?」

 「まあ……」

 「その足取りでは、危ない。車に乗っていて、 買ってくるから」



 仁は、直ぐ横に停車をしてある車に葵をエスコートした。葵の背中に手を回して支える。

 仁と葵が車に近づくと、運転席から運転手が降り、後部座席のドアを開けた。



 「座って待ってて」



 仁は葵を座らせると、一人コーヒーを買いに歩いて行った。





「やっぱり無駄だった」



車内からカフェに歩いて行く仁の後ろ姿を目で追う。

 残された葵は、乗り慣れていないシートで落ち着かないでいた。



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