Again
「もう、ドジなんだから!」



支度をするために、部屋でメイクをしていた葵は、鏡に写る自分に怒る。急いでファンデーションを塗り、眉毛を書き、チークをのせる。



「これでいい」



メイクを完璧にするよりも、待っている仁が気になる。ブラシで髪をとかして、クローゼットからフレアスカートとカットソーを出すと、急いで着替えた。



「あの、お待たせしました」



支度を終え、リビングにいる仁に声をかける。家の中で息をきらすなどあり得ないが、葵は、肩で息をしている。昼食も取らずに、昼寝をしてしまい、買い物に出るのに、すっかり陽が高い位置から、落ちかけて行く時間になっていた。

仁もパジャマからデニムにカットソーというカジュアルな服装に着替えている。

テーブルに置いてあった車のキーと財布を持つと、ソファから立ち上がる。

結婚してから初めて、一緒に買い物にでる。でかけたのはお互いの実家に行った時のみだ。スーパーに行くだけのことなのに、そわそわとしている。

無言のままで玄関に行き、靴を履いて、家を出る。仁が鍵をかけると、二人でエレベーターを待っている。たったそれだけのことが、葵には緊張を強いられているようだ。手の汗が半端じゃない。こんなに緊張するなら、買い物を無理にでも断ればよかった、後悔が葵を支配していた。



「……おい? 葵? 具合でも悪いのか?」

「は、はい! すみません。ちょっとボーっとしていただけです。何でしょう」



緊張から、仁の呼びかけが全く耳に入っていなかった。慌てて、返事をする。

エレベーターが着きドアが開いて乗り込む。



「お昼を食べ損ねたから、お腹が空かないか?」

「ごめんなさい。寝ちゃったから。買い物をしたらすぐに支度をしますから」

「いや、そんなことを言っているんじゃないんだ。軽く何か食べるか?」

「はい、すみません」



葵は寝てしまうつもりなど全くなかったし、今までも昼寝はしたことがなかった。ちょっとした気の緩みがこうなってしまい、少し落ち込んでいた。仁は仁で、掛けた言葉が良くなかったかと、反省していた。

エレベーターが駐車場のある地下一階に着き、二人で降りる。

仁が先頭に立って歩き、その後を付いて行く。仁の運転する車に乗るのは、数える程度だ。お互いの実家に挨拶に行く時に乗ったくらいで、週末の休みも出かけないし、葵はもっぱら自転車だ。車の鍵は自宅に置いている。いつでも葵は乗れる状態にあるが、都心の交通状況と駐車場の関係からいっても、葵の行動範囲では自転車がベストだ。コンパクトカーか軽自動車ならまだ利便性があるが、仁の車は4WDだ。運転をしようなどとは、思わない。

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