僕の彼女とアイスクリームと
「裏の川で泳いだんだって?まだ、6月なのに。」
「先輩・・・・・・。」
ドアの向こうは、違う世界の空気がいつも充満している。
淡いピンクで統一された彼女の部屋。本やぬいぐるみたちが、きちんと居場所を与えられ、整頓された女の子の部屋だ。
ここに来るたびに思う、彼女とは俺は違う生き物な理由とか、制服が違う理由とか、いつの間にか体育の授業が別になった理由とか。
「ほら、ハーゲン買って来たぞ。今食べるか?おばさんに言って冷凍庫保存しとくか?」
「・・・・・・いただきます。」
この部屋の主は、真っ赤に顔を染めて、別途に横たわっていた。おでこには、白い吸熱シートが貼られている。
重たそうに起き上がる彼女の横に、俺は腰を落ち着かせると、少しとけかけたハーゲンダッツのふたを開けてやった。
「熱は?」
「大分下がりました。」
「そうか。」
いつもなら、何の躊躇もなく触れられる彼女の頬に、今日は指先を伸ばすことが出来ない。何となくだが、今、触れるのはとても卑怯な気がしてならなかった。
熱で染まった頬に、乱れた長い髪の毛、部屋着のゆるい胸元のライン、何の飾りも持たない彼女に触れることはいとも容易くて、だからこそ触れてしまうのはフェアでない気がした。
プラスチックの小さなスプーンでハーゲンダッツを食べながら、彼女は不思議そうな顔で俺を見てきた。
潤んだ瞳。赤い頬。少し荒れた唇が、憎い。
「まぁ、元気そうで良かった、て、ことで帰るわぁ。大人しく寝て、早く治せよ。」
頭を優しく撫でてやって、俺は立ち上がる。
あまり長居はしたくなった。これ以上、この部屋の空気を吸っていると触れたくてたまらなくなるような気がした。
そんな俺のことなどお構いなしに、彼女は立ち上がる俺の腕をつかんできた。
小さな掌が、じんわりと熱くて、なまぬるい生き物だった。