僕の彼女とアイスクリームと
「あのなぁ。」
「行かないで、ください。」
「お前なぁ、それ、反則だから。」
下を向いて、彼女はポツンと投げ捨てた。
「だって、私を置いていくんでしょう。」
その話か。
前にその話をした時は、「先輩なんて知りません、なんでそんな大事なこと今ごろ言うんですか。先輩なんて、大嫌いです。顔も見たくありません。」と、凄い勢いでまくし立てた癖に。あの勢いと強気はどこに行ったのだろうか。
そういえば、厳格で頑固だった祖父も病に伏せたときは酷く弱気に、このまま死んでしまうのだろうか、と言っていたか。結局ただの風邪で、今も元気に毎朝ラジオ体操しているが。
「まだ行かないって。明日、学校に行けばちゃんといるからな。」
「でも、来年の春には都会の大学に行っちゃうんでしょう?」
「まぁ、それが俺の人生だから。」
学校で、薄っぺらい紙に未来を書いた。その紙は進路希望調査というヤツで、それをうっかり彼女が見てしまったことが問題だった。見てしまったこと自体が問題なのではなく、その紙に書く前に、俺が直接伝えなかったのが問題なのだろう。
深く考えてなかった。
大学は家を出ようという、その考えに疑問などなくて、俺の中では普通のことだった。
だから、彼女を傷付けてしまったのだろう。
「ごめんなさい。行かないで欲しいわけじゃなくて、離れたくないだけ、なの。寂しくなるぁって、思うだけなの。引き留めたいわけでも、考え直してほしいわけでもないの。ただの、わがままです。だって、まさか本当にハーゲンダッツ買ってきてくれるとか、思わなかったから、つい。」