僕の彼女とアイスクリームと
愛しいと思う。
一生懸命に言葉を選ぶ彼女の直向きで健気な姿勢は、いつも愛しいと喉が鳴る。
今すぐ、掻っ攫ってしまいたいといつも思う。
しかし、俺と彼女の関係は、主人と飼い犬のような永久の運命共同体ではなくて、時が経てば変化してしまうものに近いのだろう。過去や思い出になってしまうもかもしれない類のものだ。つまり、未来にくるだろう彼女の結婚式に、俺は彼女の隣にいるかもしれないし、友達席にいるかもしれない。一生を語るには若すぎるのだ。
それでも、愛しいと思う。
抱きしめて、キスをして、組み敷いて、覆いかぶさって、全部が欲しいと駄々をこねてしまいたい。でも彼女は、俺より小さくて細くて、弱くて、幼くて、大切にしないといけない女の子という生き物だ。
「来週は祭りで縁日が並ぶんだろ?浴衣着て行くって張り切ってただろ、リンゴ飴でも綿菓子でも何でも奢ってやるよ。で、夏休みは海行くんだろ、今年は電車だけど、来年は免許取って車で連れてってやるよ。だぁかぁら、早く風邪治せ。」
「たこ焼きも奢ってくれますか?焼き鳥も食べたいし、ラムネも飲みたいし。」
「食い意地はりすぎだろ。分かった、分かった、全部奢っててやる。」
「金魚すくいも、風船釣りも。」
「ついでに、射的と輪投げもつけてやるよ。バイトを辞めた俺に容赦ないなぁ、だから、機嫌直して、大人しく寝ろ。」
俺の腕をつかむ彼女の手を、そっとほどいて布団の上に返す。
「なんつぅー顔してんだよ。」
母親に置いてけぼりを食らう子供のように、心細そうな顔で俺を見上げる彼女の鼻を思いっ切りつねってやる。
「じゃぁな、元気になったら、また明日な。」
ひらひらと手を振ってから、部屋のドアノブに手を掛ける。
「キスぐらいしてくれてもいいじゃないですか!」
彼女が俺の背中に爆弾発言を投げつける。
ぐらりと俺の心の中を揺さぶるが、すぐに彼女が布団をかぶる音がした。
丸くなって布団の中に逃げ込んでしまった彼女を横目で確認して、苦笑する。
「ばぁーか。病人が何言ってんだか。」
思わず階段を踏み外しそうなほど、動揺している自分に驚く。
冷静を装いながら、彼女のお母さんと、どことなく気まずそうなお父さんに頭を下げて、彼女の家を出る。
外はもう真っ暗で、ぽっかりと晴れた夜空に星が流れていた。