現実は小説よりきなり




ソファーの背もたれに埋まる勢いで体を後方に引いた私に、目の前まで来た琉希也君は手を伸ばしてくる。

近付いてくる琉希也君。

ふんわりと香る彼の香水にくらりとした。



えっ?な、なに?

き、キスとかされちゃうシチュエーション?

携帯小説なら、そうだよね?


や、無、無理...。

何なのよ、これ。


自分に向かって伸びてくる手にギュッと目を瞑る。



「これ、要らねぇだろ」

スッと顔から抜き取られたのはだて眼鏡。


恐々目を開けた私に、

「なに?キスでもされると思ったか?」

と意地悪く口角を上げた琉希也君。

私から奪い取っただて眼鏡のフレームを掴んでヒラヒラと振ってる。



「ち、違うし」

頬を赤くして強がっても意味ないけど、素直になんて認めてやんない。


「ククク、俺は良いぜ?なんなら、ヤッてみるか?」

琉希也君が言うと、凄く生々しく聞こえるんだけど。


「...す、するわけないじゃん。そう言うのは好き同士がするもんだし」

からかわれてるのは分かっててもドキドキは収まんないよ。



「残念。ま、そのうち戴く」

なんて言いながら、眼鏡を掴んでない方の手を私に伸ばすと、長い人差し指で私の唇の形をゆるりとなぞった。


「んなっ...」

なにするのよ!


目を見開いた私にクスッと笑うと、私の唇に触れてた指先を自分の唇に当てた琉希也君。


これがまた妖艶に見えて...。


む、無駄にフェロモン撒き散らすんじゃないわよ。


今にも飛び出しそうな心臓に、目の前の彼が気づきませんように。


悔しいけど、この時の私は琉希也君の色気に完全に飲み込まれてたと思う。









「じゃあな?帰るわ」

なんて軽く手を上げた琉希也君は、あまりにもあっさりと帰っていった。



それはそれで良かったのだけど、彼が居なくなった後も、私の心臓は激しく動き続けていた。


ようやく我に帰った時には、深夜を過ぎていて。

慌ててベッドに入って眠りについたのだった。



ほんと、なんて日だ......。



その夜、夢に出てきた琉希也君に魘されたのは間違いない。







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