現実は小説よりきなり




そんな翌日、私は編集さんからの着信で目が覚めた。


土曜日だったにも関わらず朝の八時になったそれは、私にとって恐怖以外の何者でもなかった。


「...あい..」

寝ぼけながらタップしたスマホを耳に当てた。


『編集の北野です。寝てたのにごめんね?』

彼の申し訳なさそうな声に脳内は覚醒していく。


「へっ?あ...そんなことないでふ」

あ...上手く話せない。

でふってなんだ?と自分に突っ込み。


寝起きは頭も口も上手く回らない。



『小説の出来具合はどうかな?』

ああ...そこは聞かないでぇ。


「あ...えっと、ぼちぼち?ですかね?」

慌てて飛び起きるとなぜかベッドに正座した私。


『今回はアニメ化もあるので、締め切りは守らないと大変なことになりそうなんだよ』

と力ない北野さんの声は編集長の圧力が掛かってきてる事を知らせてくれた。

今書いてる小説は、社を上げた企画だとか言われてたような気がするもんなぁ。


そりゃ、編集長も出張ってくるか。

呑気に解析してるけど、大変な事態である。


スランプだとか口が避けても言えない。


「...残すは最終章なんですが..少しだけ手間取ってます」

長編ではないので、後一息なのは間違いない。


アニメ化してみてウケたら、続編をと言われてるからね。


ま、その後一息が浮かんで来ないんだけどね。

それはそれで致命傷である。



『そうですか、それを聞いて安心しました』

ホッとした様な北野さんの声に罪悪感が湧く。


北野さんはデビュー以来、お世話になってる編集さんなので、困った時も何度か助けてもらった覚えがある。

良い人を困らせたくはないが、このままスランプが続くと大問題だ。



「締め切りは今月末でしたよね?」

後半月だ。


『うん、そうだよ』

やっぱり...と肩を落とす。


イヤマジでヤバイね。

スランプを脱出しなきゃならん。

胸がイヤな鼓動を打つ。


あ~このまま心臓止まるかも。




北野さんとは当たり障りのない会話をして通話を終わらせた。

だけど、彼の電話で窮地に立たされたのは間違い。



画面が黒くなったスマホを見つめて深い溜め息を吐く。



「ダメだ。部屋に籠ってても...」

リフレッシュするために、散歩に出掛けようと心に決めた瞬間だった。





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