現実は小説よりきなり






キッチンカウンターの上に置きっぱなしだった眼鏡をかける。


これで良し。

忘れるとか有り得ないわ。



冷蔵庫から取り出したオレンジを二つのコップに注いで、それを両手に持ってリビングに戻る。


「オレンジ飲める?」

コトンと美樹の前にコップを置いた。


「うん、ありがと」

笑顔で頷いたのを見て、私は自分のコップを持ったまま対面のソファー座った。


頂きますとオレンジジュースを飲む美樹を見据えながら、私もオレンジジュースを一口飲んだ。



「...あの、ごめんね?」

心配かけたし。


「ううん。友達だもん、心配して当然だし」

当たり前の様にそう言った美樹にドキッとした。


って言うか、いつ友達になったのかな?

そんな覚えないんだけど.....。


「...あ...えっと..」

首を傾げて困った顔をした私に、


「あ...ごめん。友達だと勝手に思い込んでた」

と天然ぶりを披露した美樹。


「...へっ?」

間抜けな顔にもなると思う。


「今から、友達として宜しく」

迷い無く伸ばされた手に戸惑ってしまう。

だって、この手を掴むと私の普通が崩れちゃう気がするんだ。


「.....」

美樹が裏表無く言ってくれてる言葉なのに、素直にうんと言えない自分がもどかしい。


「迷惑?えっ!迷惑?」

困った様に眉を下げる美樹は若干パニックだ。


「...あ、迷惑じゃないんだけど。逆に私なんかが友達になるとか迷惑だと思って」

古沢君を初めとする派手なグループに所属してる美樹が私と友達とか変だよ。


「もう、まったくそんな事ないって。嵐ちゃんなら大歓迎。ッてか、是非仲良くしてほしい」

食いつかれそうなほど身を乗り出してそう言った美樹に圧倒される。


「...あ、うん。でも、私あまり目立つのが得意じゃないから...出来れば学校では」

話し掛けられたくないと言おうとしたけど、美樹の屈託のない笑顔に言えなくなった。

酷いこと言えない。


「分かった。学校では挨拶だけね。でも、寮に帰った来たら遊ぼ。もちろんメアドも交換だよ」

イエーイ!とピースした美樹は私の心の声を読み取ってくれた。


「ん。ごめんね。我が儘で」

「ごめんなんて言わなくて良いし。私達、友達だし」

階段の事が無かったら関わる事なんてない派手なギャルの美樹なのに、こんな風に話してみると凄く良い子だと分かるんだ。





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