現実は小説よりきなり
あの日から数日はなにもなく過ぎた。
美樹や古沢君達と挨拶を交わす以外は、特に変わった事もなかった。
だけど、異変は確実にやって来た。
「あれ?」
首を傾げたのは机の上に置いてあったシャーペンが無くなってたから。
ついさっきトイレに行くまではあった。
戻ってみたら広げた英語のノートの上に置いてあったシャーペンが無いのだ。
落としたかな?
でも...ここに置いた気が...。
休み時間の騒がしい教室。
机の中を覗いたり、床に落ちてないか探したりしてみた。
だけど、シャーペンは見つからない。
「どうかしたの?」
机の側にしゃがみこんでた私を見下ろしたのは眞由美。
「...あ、うん。シャーペンを落としたみたい」
眉を下げて彼女を見上げた。
眞由美の隣には可奈の姿。
「一緒に探すよ」
可奈が私の隣にしゃがみこんだ。
「あ、ううん。良いよ。もうすぐチャイム鳴るし」
首を左右に振って立ち上がる。
教室の掛け時計は後一分で次の授業の時間を知らせる。
「えっ?でも」
と心配そうに私を見る可奈。
「思い違いかも知れないし」
ニコッと笑った私に、
「大丈夫なの?」
と眞由美まで心配そうな顔をする。
「うん」
と頷いた時、授業開始のチャイムが鳴った。
「また、後でね」
と二人に手を振る。
「うん、また」
「...うん」
眞由美と可奈はしぶしぶ自分の席に戻っていく。
ガタガタと言う音と同時にクラスメートは席についていく。
もちろん私も椅子に座った。
先生が来て授業か始まる。
手元のノートにもう一度視線を落とす。
やっぱりここに置いたよね?
この授業で英語の小テストがあるから予習してたんだもん。
どこかに消えてしまったシャーペン。
ハチミツの壺を抱えた赤い服を着た黄色い熊の絵が書かれたそれを、トイレに行くまでは使ってた。
可笑しいなぁ?と首を捻りながらも、授業に意識を戻した。
これが、異変の始まりだとも知らないで。
この後に降りかかってくる大きな影にも気付かずに居た。