現実は小説よりきなり
「何してんだよ?嵐」
靴を履き替えて戻ってきた琉希也君が、靴箱を開いたまま考え込んでる私を見て首を傾げた。
「あ...うん。持って帰ろうかどうしようか迷ってた」
正直に話す。
「持って帰る?」
怪訝そうに眉を寄せた彼は意味が分かってないらしい。
ま、彼は嫌がらせをされる側に回った事なんて無いだろうから、分からなくても仕方ないかもね。
「そ、イタズラされないように持って帰ろうかと。嫌がらせの基本は靴箱を荒らしたり机を荒らしたりが多いからね」
こう言えば伝わるかな?
「...チッ、んなくだらねぇことするのかよ。嵐もヤられてんのか?」
琉希也君は苛立たしげに舌打ちした。
私の為に怒ってくれるのは嬉しいけど、怖いから殺気はしまって欲しいかも。
「あ...靴箱は手紙を入れられる程度だったけど、机はゴミが詰まってた」
くだらないよね?アハハと笑ったら、
「無理して笑ってんな。悔しいんだろうが」
と頭の上に琉希也君の大きな手がポンと置かれた。
「...悔しいけど。これぐらいならダメージも受けない」
まだ可愛らしい嫌がらせに過ぎない。
私はもっと酷いことを中学の時に経験したもん。
靴を焼却炉に何度も捨てられて、机に落書き、教科書は破かれ、体操服は切り刻まれた。
黒板には毎朝大きく私への誹謗中傷が書かれてた。
それに比べれば今の嫌がらせなんて可愛いものだよ。
「ったく、これからは俺が守るから強がんな」
見透かした様な瞳で私を見下ろす琉希也君。
「...あ、うん。そうだったね」
今の所、逆効果っぽいんだけど。
そこは、あえて伏せておこう。
とにかく今は上靴をどうするかだし。
「上靴が心配なら鍵付けるか?」
「へっ?」
思わぬ琉希也君の提案に目を丸くした。
そんなこと出来るんですか?
「この部分に鍵付けられんだろ」
琉希也君は靴箱の取っ手の部分の丸い穴を指差した。
よく見てみれば靴箱本体も閉めた時に重なるように同じ様な穴が開いてた。
「ああ。ここに錠前見たいな鍵なら付けられそうだね」
ウンウンと納得する。
一年少し使ってる靴箱なのに気付かなかったなぁ。