現実は小説よりきなり
「って言うか、嵐ちゃん返してよ。教室へ迎えに行くのは譲ったんだからね」
そう言うと美樹は繋いでいた琉希也君の手と私の手を引き離して、そのまま腕に抱き着いてきた。
急に無くなった温もりに少し寂しさが沸いたのはどうしてかな?
「...チッ、うぜぇ」
琉希也君は不機嫌にそう言うと私とさっきまで繋いでた手を乱暴にズボンのポケットに突っ込んだ。
そんな彼に空かさず近づいたのは聖子さん。
「琉希~也、帰ろぅ」
甘えるような声を出して、彼に猫みたいに擦り寄った聖子は、一瞬だけ私を見て黒い笑みを浮かべた。
もちろん、周りには気付かれないように計算して。
ゾクッ...と背筋が寒くなる。
ここまでの悪意の視線を向けられたのは初めてかも知れない。
ピクッと肩が反応した私に、
「嵐ちゃん、どうかした?」
も心配そうに美樹が聞いてくる。
「...っ、ううん、何でもない」
今ここで聖子さんの話なんて出来ないもん。
「さ、帰ろ」
そう言って先に歩き出したのは、霞。
「おう、そうしようぜ」
と遊佐君が隣に居た日向君の肩をポンと叩く。
歩き出した三人に続いて私と美樹も歩き出す。
琉希也君は聖子さんを振り払う訳でもなく、私達の後を気だるそうに歩いてくる。
聖子さんは幸せそうに琉希也君に話し掛けてるけど、彼の返事は適当なモノで。
彼女に話し掛けられるのが面倒臭い癖に、彼女を拒絶しない琉希也君に違和感を覚える。
どうしてかな?
胸の奥でモヤモヤした何かが渦巻く。
さっきまで私の隣に居たのに、今は聖子さんが琉希也君の隣に居る。
なんだか、少し嫌だと思った。
「嵐ちゃん、さっき聖子に睨まれたよね?」
美樹が私にしか聞こえないように顔を近付けてそう言った。
「...し、知ってたの?」
「うん。嵐ちゃんの隣に居たしね。あいつ、誰にも気付かれてないと思ってるけど」
本当にムカつくと付け足した美樹は怒りを顔に出してる。
「ちょっと落ち着いて」
「分かってるけど。嵐ちゃんを睨むとか何様よね?」
こら、声が大きくなってきてるから。
「み、美樹ってば。シーっ!」
慌ててそう言うと自分の唇に人差し指を押し当てた。
だけど、時すでに遅し。
後ろの二人に美樹の声は届いたらしい。