現実は小説よりきなり
「どうかしたのか?美樹」
低い声で問い掛けたのは琉希也君。
「あ...あ、う、うん。そう、嵐ちゃんと琉希也が校庭を歩いてる時に嵐ちゃんを睨んでた連中が居たからムカついたって言ってたの」
慌てて言い訳した美樹に、
「ああ、あいつらな。俺もムカついた」
と話を合わせた琉希也君。
「酷い人達が居るよね?」
怖いね、と白々しい心配をする聖子さん。
ま、美樹の嘘に気付いてないならそれでいいけど。
「ほんと、ムカつく。何様よね?」
美樹はプリプリと怒る。
その怒りの矛先に向けられてる当人は気付いてるのか?気付いてないのか?
女の子って怖いね?なんて言いながら、ニッコリ笑って琉希也君を見上げる聖子さんの表情からは見てとれない。
凄く嫌な気分になる。
琉希也君、聖子さんの好きなようにさせるのはどうして?
「あ、嵐ちゃん、早くいこ。眞由美達が待ってるし」
呆れ顔で聖子を一瞬見た美樹は私の手を引いて歩き出す。
「あ...う、うん」
この場に居たくない私には調度良い。
私の腕を引く美樹は少し前を歩いてた霞達も追い抜いてズンズンと歩いていく。
「どうしたのよ、美樹。そんなに急いで」
霞の声が後ろから追い掛けてくる。
「今日は嵐ちゃんの友達とこれから勉強会じゃん」
美樹は振り返って嬉しそうに答える。
「あ、そうだったわね。私は少し遅れて行くわね。用があるから」
昼間の話を思い出したらしい霞。
「了解。霞が来るまでにがんばっとく」
「美樹にしては懸命な判断ね。私が驚くほど進んでることを楽しみにしておくわ」
なんて何かを見透かした様に微笑む霞。
「もちろん。赤点脱出したいもん」
心の声がポロッと出たらしい美樹。
「ククク...だよな?美樹は赤点王だもんな」
からかうように口角を上げた遊佐君は美樹をおバカ扱いしてるらしい。
「うっさいのよ。黙ってて、遊佐。じゃ、また明日ね、皆」
キッと遊佐を睨むと霞達に手を振って私の手を引いて駆け出した。
「へっ?きゅ、急に!」
急に引っ張られて足を取られそうになりながら美樹のスピードに合わせて走る。
「あ、じゃ、皆お先」
振り返って手を振る。
「嵐ちゃんバイバ~イ」
にこやかに手を振る日向。
「嵐、また後で」
と綺麗に微笑む霞。
「また明日ね、嵐ちゃん」
遊佐君はヒラヒラ手を振る。
その向こうで、不機嫌な顔をした琉希也君と、その彼にしなだれかかりながら歩く聖子さんの姿があった。
ズキンと痛んだ胸、知らんぷりして前を向いた。