時のかけら
「じゃあ行こうか!」
まるで初めて会った時のことを思い出す――。
哲哉さんは強引に、だけど優しく手を握るとぐいぐいと引っ張っていく。
駐車場を出ると道路を挟んで反対側、坂道を下ったところに海水浴場。
たくさんの人の姿が海の中にも砂浜にも見える。
すれ違う人たちの中には着替えてはいるものの、髪の毛が濡れている人もチラホラ。
とりあえず反対側にある海水浴場の入り口を通り過ぎて一安心。
そのまま直進していく哲哉さんは、一体どこに向かっているんだろう?
引っ張っていってはいるものの、あたしの歩くペースに合わせてくれているみたい。
繋いだ手の温もりは何だか久しぶりで懐かしい……。
胸がドクンと反応する。
哲哉さんといるとドキドキもさせられるけど、何でこんなにも安心するんだろう。
繋いだ手をいつまでも離したくなくて、後ろから見る大きな背中をいつまでも追い掛けていたくなって……。
もし……哲哉さんの時間を独占することができれば、どんなに幸せだろう。
そんな考えが頭をよぎる。
そんな無理な話……。
だけど、何でだろう。
あたし……
いつか哲哉さんを独占できる時間が来る気がしてならなかった。