時のかけら

眉をピクッと動かす哲哉さんに妙な不安を覚える。


そして次の瞬間、自分の中を言いようのない感情が駆け巡った。




「やっぱり帰ろうか」




ドクドクドクドク……。

記憶の欠けらが埋まる……。



嫌だ嫌だ……嫌だ。

帰りたくない。

もっと一緒にいたい。

こうやって出かけていたいよ。



不意に湧き上がってきた感情。



今、感じた……と言うより、もっとずっと昔、おそらく記憶がなくなる前から抱いていた感情のように思える。



あたしこの痛みを知っている?


胸が苦しい。


張り裂けそう。



大切な時間を誰にも何からも奪われたくない。



強く強く、心の中で思う。




「哲哉さん、あたし大丈夫だから……帰ろうなんて言わないで」




何だか泣き出しそうな気分を必死に堪えて、声を震わせながら言葉を吐き出す。




「本当に?」




心配してくれているのは伝わるけれど、




「もともと肌が白いうえに日焼け止めを塗ったから、顔色が悪くみえるだけだよ」




本当は自分の体の小さな不調に気付いているのに、それを隠し通そうとする。



ワガママだって、自分勝手だって思われても構わない。


まだ帰りたくない。


この気持ちが優先されるなら、あたしはどんな迷惑だってかけるんだから……。




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