時のかけら
『ここはね、一番お気に入りの場所なんだ』
あ、やっぱり……。
「ちょっと、ルリ!? 大丈夫?」
「う……ん、平気……」
頭の中に広がる光景は、今、哲哉さんと見ているこの景色。
同じようなことを言われ、とても嬉しそうに微笑む少し幼い女の子の影。
きっと、小さい頃のあたしだ。
年は小学校低学年ぐらい?
「哲哉さん、あたし……、ここに来たことがある」
頭痛のする頭を押さえながら、心配している表情から驚いた表情に変わる哲哉さんを見つめる。
――それなら納得がいく。
この景色を見た瞬間に胸の鼓動が激しくなったのも。
何だか懐かしい気がしたのも。
哲哉さんの“お気に入りの場所”という言葉に頭痛がしたのも。
あたしにとってこの場所は、きっと大切な場所なんだ……。
記憶の奥底に閉じ込められていた気持ちが溢れてくる。
「っ……ルリ!?」
「ごめん、哲哉さん……。大丈夫だから……」
自然と零れ落ちる涙を止めるすべが見つからない。
ただ、困ったようにそっとあたしの頭を優しく撫でる哲哉さんに、心が穏やかになってくる。
今だけ、いい?