時のかけら
「うん、分かった! 出張頑張ってきてね!!」
それを手の中に埋めたまま、顔を上げて哲哉さんにとびっきりの笑顔を向ける。
それに応えるように哲哉さんも柔らかな笑顔を見せてくれると、いつものように頭をくしゃっと撫でてくれた。
トクン……。
静かに反応する胸の鼓動が、あたしの寂しさを増していく。
行かないで、哲哉さん。
「行ってらっしゃい!!」
気持ちとは裏腹な言葉がスルリと口から出てくる。
行ってほしくないのに。
一緒にいたいのに。
「ルーリ?」
突然、甘い囁きのようにあたしの名前を呼んできた哲哉さん。
頭を撫でられたまま視線だけ向けると、
「寂しくなったらいつでもかけておいで」
目を細めて微笑み、哲哉さんの手があたしの頭を一層優しく撫で始めた。
どれだけ平静を装ったって、哲哉さんはあたしの寂しさに気付いてるんだ……。
“大丈夫”
その言葉は自分に言い聞かせている言葉。
きっと、分かってるんだね。
あたしが電話をかけたら、例え仕事中でも本当に出てくれそう。
哲哉さんの優しさが身に染みる。
「あたしも携帯持ってたらよかったのに……」