時のかけら
「メール……?」
「うん、そしたら電話よりは気軽にできるでしょ。やっぱり仕事してると思うと電話はかけられないし……」
言いながら少しずつ落ち込んでいくあたし。
笑顔で送り出すって決めていたのに。
すると、哲哉さんはクスクスと笑いだした。
「ルリはそんなこと気にしなくていいって! いつでもかけておいで、ね?」
「うん、ありがと」
哲哉さんの言葉はまるで魔法のように、あたしの心を温かくしてくれる。
その言葉があるから、あたし一人でも頑張れる気がする。
「ねぇ、ルリ。メー……」
「あっ!! 哲哉さん、時間大丈夫なの?」
随分と玄関前で話し込んでいたことに気付き、慌てて声をかける。
哲哉さんも慌てて腕時計で時間を確認すると「やばっ」と呟いて、キャリーケースを手にした。
「気を付けて行ってきてね!」
「ルリもね。我慢もするんじゃないよ! じゃあ行ってきます!」
そして慌ただしく哲哉さんは家を出ていった。
ドアの隙間から顔を出して、車が遠ざかっていくのをボンヤリと眺める。
行っちゃった……。
静かにドアを閉めて鍵をして、ため息をつきながら誰もいない部屋に戻っていった。