時のかけら
「あっ……」
そっか、やっぱりそうなんだ。
頭でそのことについて考えて何かしら言い訳をつけていたけれど、これが本音。
ようやく認めてしまったんだ。
あの優しさもあたしに向ける笑顔も、髪をくしゃっと撫でてくれることも本気で心配してくれることも……。
言いだしたら切りがないくらい。
こんなにも胸がモヤモヤして苦しくなって、一緒に過ごす時間が嬉しくてドキドキして、哲哉さんの言葉や仕草に胸がトクンッと音を立てて……。
そうだね、そうなんだよね。
あたし……。
コンロの火と換気扇を止めて、鍋で炒めていた玉葱をそのままにする。
いてもたってもいられなくなったあたしは、バッグと合鍵を手に取ると家を飛び出していた。
思い出すのはあの笑顔。
優しい眼差しであたしを見つめて、名前を呼んでくれる哲哉さん。
走って数分――。
駆け込んだ近くの電話ボックスで受話器を握り、財布からテレホンカードを取り出そうとする。
待っていたら帰ってくるのに、今、声が聞きたい。
哲哉さんの声が聞きたいよ……。