時のかけら
「ふーん」と言いながら、上から下まで舐め回すように見てくる女の人。
鋭い眼光に物怖じしそうになるのを必死に耐える。
まるで尋問にでも合っているような感覚。
悪いことなんてしていないのに、そんな気になってきて……。
例えば警察で取り調べを受けている人が、やってもいないことを「やりました」って言ってしまうのは、こんな精神状態なんだろう、だなんて思う。
「ふーん、確かに哲哉と似てるわね。で、哲哉はいないの? 家に電話しても繋がらないし」
一歩前に詰め寄ってきた女の人に圧倒され、合鍵を鍵穴から離して手の中に握り締めてドア側に後退る。
両手で腕を組んで顔を斜めに傾けて、睨んでいるかのように視線を外してくれない女の人。
「今朝から出張に行っているので家にはいません」
か細い声しか出せなくて、胸は激しく鳴り響く。
この人、何か嫌だって。
人を見かけで判断したら駄目だけど、雰囲気が嫌。
綺麗な大人の女性とは思うけど、性格は最悪なんじゃないかって思うほど、言動から優しさが感じられなかった。