時のかけら
何もする気が起きなくて、だけど食材は無駄にしたくなくて、半生の玉葱を塩コショウで炒めるだけ炒める。
一人の食事はこれ以上ないほど寂しくて、帰ってくることはないと分かっているのに二人分の箸とお茶碗を用意する。
いつも哲哉さんが座る場所。
「いただきます」って声が聞こえてくる。
美味しそうに料理を頬張る姿。
日常と課してしまった哲哉さんとの食事が、一緒に過ごす時間が、あたしにとってどれだけ幸せなことだったのかと痛感する。
「もう寝よ……」
早々に後片付けを済ませ、まだ日の暮れないうちにベッドに潜り込む。
暗くなればなるほど、独りの不安に包まれそうだったから。
会いたい……。
声が聞きたい……。
傍にいて欲しい……。
明かりを消さずに固く目を瞑る。
哲哉さんのいない初めての夜は果てしなく長く感じる夜だった。
物音一つにさえ過剰に反応して中々寝付けなかった。
胸の警鐘は
いつまでも鳴り止まず。