時のかけら
「ねぇ、哲哉さん?」
「ん?」
「あたしだけベッド使うの悪い気が……」
寝る準備を終えたあたしはベッドで、哲哉さんは床に薄いタオルを敷いて、部屋の電気を消して眠りにつこうとしていた。
「男だから平気。女の子を床になんて寝させられないよ」
カーテン越しに漏れる月明かりが、表情は見えないけれど哲哉さんの影を映す。
それだけであたしの心は落ち着いていた。
「それにね、これ以上近づくと襲っちゃうかもよ?」
「お……おっ……」
あたしの反応に、ククッと笑い声が聞こえてくる。
「冗談だって。気にせず寝なさい、ね?」
よかった、暗くて。
あたしきっと今、顔真っ赤。
「ありがとう哲哉さん、おやすみなさい」
「うん、おやすみルリちゃん」
その言葉を最後に、あたしは深い眠りについていた。
会ってたった数時間の彼の隣で。
不思議な人。
優しくて強引で、そして、おもしろくて敏感な人。
記憶のないあたしを救ってくれた人。
ねぇ、哲哉さん。
この出会いは偶然なんかじゃなくて、運命だったのかな。
あたしが生きていくために神様がくれた贈り物だったのかな……。