時のかけら
「……っん……う〜ん」
カーテンから漏れる朝日を浴び、大きく背伸びをして体を起こした。
あれっ、夢?
優しくて甘い記憶。
あたしすごく大事にされて深い愛情に包まれていた、そんな記憶。
暗い闇の中から聞こえたあたしと彼の声。
思い出すと胸が締め付けられ、目を閉じて両手を胸に当てて固く握り締めた。
……あたし。
静かに目を開けて頭の中を整理する。
そういえばここ、哲哉さんの部屋だっけ。
床で寝ていたはずの哲哉さんの姿はなく、あたしはベッドから降りた。
そしてキッチンへと通じるドアをゆっくりと開けてみた。
「あっ、おはよ〜ルリちゃん!」
コンロにかけてある鍋の中をお玉で回しながら、爽やかな笑顔を向けてくれた。
朝からなんて清々しい人なんだろう。
昨日とまったく変わりなく明るく接してくれる。
それに引き換えあたしは……
「おはようございます」
こんな調子だし。
心の中はモヤモヤしてるし。
だけどそんなあたしなんてお構いなし。
「朝食できたし食べようか」
そう言って鍋をコンロからはずし、朝食の準備を始めた。