時のかけら
温かな湯気が立ち上る、真っ白でキラキラと輝いているご飯。
味噌とダシの香りが漂う、豆腐とワカメの味噌汁。
少し形が崩れているけれど、フワフワとした黄色い玉子焼き。
美味しそう。
「これ、全部哲哉さんが?」
「ん? そうだよ。あっ、和食苦手だった?」
「いえ……男性なのにすごいなぁって思って」
「まぁ一人暮らししてると自分でしないといけなくなるからね〜。冷めないうちに食べよう!」
「食べてもいいんですか?」
「アハハッ、何言ってるの! ルリちゃんが食べてくれないと作った意味ないじゃん!」
先に座って食べ始めた哲哉さんは、なかなか食べださないあたしに気付くと……
「はい、あーん!」
と言って卵焼きをあたしの口に入れてきた。
「ーーっ!!」
まるで恋人通しのようなその行動に、思わず口を開けてしまった自分が恥ずかしくなった。
心拍数は急激に上昇。
「もう一回食べさせてあげようか?」
あたしの反応を楽しむかのように、卵焼きを目の前に差し出してくる哲哉さん。
「自分で食べれますから!」
ベーッて舌出したのは照れ隠し。
それから食べ終わるまでこんなやりとりを続けていた。
いつの間にか昨日と同じように楽しんでいたあたし。
哲哉さんの作ってくれた朝食は、もちろん美味しかった。
そして、やっぱりどこか懐かしく感じて、家庭を思い出すような味だった。