時のかけら
朝ご飯を食べ終わるなり、あたしは片付けを始めた。
その間哲哉さんは「ちょっと出てくるね」と言って、車でどこかに出かけていった。
あたしは、洗い物をしながら今までのことを思い出していた。
時々蘇る記憶――。
突然思い出したり。
頭痛がして頭の中に声が聞こえてきたり。
夢を見たり。
あたしの記憶のかけらが、少しずつ頭の中に埋まってきている。
そのうち、すべて思い出せそうな……。
だけど、あたし……。
どこかで思い出すのが怖いって思っているんだ。
何で?
ザーッと流れる水の音が、あたしの心に深く深く響いていた。
最後のお皿を洗い終わり、あたしは部屋へと戻った。
昨日、部屋の隅っこに置いた自分の服を手に取り広げてみる。
白の薄いワンピース。
陽の光にあたると透けそうなくらい。
身につけていたのはこれだけ。
他に何一つ荷物を持っていなかった。
あたしはどうやってあの場所まで……?
それにね、もし、昨日哲哉さんに会っていなかったら?
哲哉さんが家に連れてきてくれなかったら?
あたしは一体どうしていたんだろう。
考えるだけでゾッとする。
だからっていつまでもここにいられる訳じゃないし。
この先あたしはどうしたらいいのか、先の見えない答えを探していた。