時のかけら
散らばった荷物の中に小さなかけらが見えた。
これ……。
「ジグソーパズル?」
それを拾おうとして手を伸ばすと、それよりも早く後ろからすっと伸びた手がそのかけらを拾い上げた。
振り返った先には片手に荷物を抱え、もう片方の手に拾った青いピースを空にかざす哲哉さんの姿。
「哲哉さん……」
チラッと視線をあたしに向けると、とびっきりの笑顔になった。
「ただいま!」
そんな哲哉さんを見て、あたしもつられて笑顔になった。
「おかえりなさい!」
自分でも不思議なくらい自然に出た笑顔。
それは拾い上げられたひとかけらのピースのように、透明で鮮やかで、この夏の青空のように澄みきった気分から出た笑顔だった。
「いい笑顔〜」
嬉しそうに言う哲哉さんは、まるであたしの心が分かっているみたい。
「ルリちゃんの記憶もさ、このパズルのピースみたいに飛び散っちゃったのかな……」
空にかざしていたピースをあたしの前に差し出してくると、
「だけどさ、きっと一つ一つのかけらが少しずつでも埋まっていって、いつか思い出すよ!」
真面目な顔付きで一生懸命喋り出した。
「だから記憶を取り戻すために俺も力になるし、その笑顔忘れないでね」
少し照れ臭そうに言った彼の言葉に“本当に哲哉さんに会えてよかった”って心の底から思えたんだ。
――ありがとう。