時のかけら

目の前にいる彼はあたしの様子を眺めていたかと思うと、次の瞬間、突然手を掴んできた。


えっ、何?


……その理由を考える暇さえ与えないくらい半ば強引に、




「夏だからって風邪引くよ? とりあえず店入ろうか」




そう言って優しく微笑んだ彼は、ぐいぐい引っ張っていく。


あたしはただ、そんな彼の進むがままについていった――……。



立ち並ぶ建物の中に入り、慣れた様子で店へと足を進めていく。


スマートにドアを開けて店の中へとエスコートしてくれる。



多分、こんな経験初めて?



だからなのかな。


あたしは彼の行動に胸を高鳴らせていた。




「何がいい?」


「同じもので……」


「じゃあ、ホットコーヒーでいいかな?」




無言で頷くあたしに笑いかけてくれて、お店の人に注文する彼。



この人の優しそうな笑顔。


何だか懐かしい……。


前にも見たことがある?



ぼんやりと考えていると、いつの間にかテーブルの上に湯気が立ちのぼるコーヒーカップが二つ並べられていた。


それを口に含む前に、彼が静かに口を開いた。




「……で、大丈夫なの?」




不意に投げ掛けられた質問。


“大丈夫?”


その言葉に思い当たる節があった。




「あの……」




意を決して聞こうと言葉を発した瞬間、彼の長い指があたしの頭を指差していた。




「頭痛治まった?」





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