時のかけら
あたしは哲哉さんの優しさで胸がいっぱいになった。
見ず知らずのあたしにこんなによくしてくれて。
言葉では言い表わせないくらいの感謝の気持ちでいっぱい。
まだ記憶のかけらほどしか思い出していないのに……。
不安でいっぱいのはずなのに。
今、あたしはこんなにも幸せに満ち足りている。
このまま哲哉さんの傍にいたいって思っている自分がいるみたい。
「……ルリちゃん?」
名前を呼ばれて顔を上げて、あたしは初めて気付いた。
目が滲んでいて視界がぼやけ、涙が頬を伝っていることを……。
「え……?」
そして次の瞬間には、哲哉さんの腕に包まれていた。
気持ち良くて、温かくて、安心できる優しい哲哉さんの腕の中。
伝わる鼓動――……。
あたしには彼氏がいる。
家族だって捜しているかもしれない。
だけど……。
今はただ、この温もりの中にいたいって、そう願ったんだ。