時のかけら
「……ったく、俺何度目だよ。彼氏いるって言ってたのに」
笑い声の中、かすかに聞こえた哲哉さんの声。
だけど……ハッキリと聞きとれなくて聞き返してみると、
「……ん? 独り言、気にしないで」
何だかバツが悪そうにする哲哉さんを不思議に思いながらも、
服を手にしていることを思い出したあたしは目の前に広げてみた。
「か、可愛い〜!」
あたしが抱きしめていたのは、ベージュ色した半袖のワンピースだった。
胸元のラインが綺麗で、黒のリボンが印象的。
全体的にフワフワとした可愛いイメージ。
「気に入った?」
「うんっ! あっ、気に入りました!」
哲哉さんは嬉しそうにあたしの頭を優しく撫でてくる。
あたしも嬉しくなって微笑んでいた。
「敬語禁止ね!」
「えっ?」
「その代わり、ルリって呼び捨てにしていい?」
……哲哉さん。
何でそんなにあたしのこと気づくのかな。
さっき思わずタメ口使いそうになったこと。
なんかこの人には敵わないなぁなんて思いながら、哲哉さんの笑顔に負けないくらいのとびっきりの笑顔を向けた。
「分かりました!」
「って、ルリ敬語使ってるよ?」
ドキッ……!!
“ルリ”って呼び捨てにされただけなのに。
あたしの心臓は壊れそうなくらい激しく反応していた。