時のかけら
カチャ――。
ドアを開けてそーっと顔だけ出してみると、哲哉さんはアパートの前に止めてある自分の車にもたれかかってタバコを吸っていた。
空を見上げ煙を吹き出す哲哉さんの横顔に、あたしは少しの間見とれていた。
「あっ、着替え終わった?」
あたしに気付いた哲哉さんは、タバコの吸い殻を携帯灰皿に入れ近づいてきた。
哲哉さんがゆっくりとドアを開ける。
「……ど……うか……な?」
ちょっと照れ臭くなって、声がだんだん小さくなっていく。
そんなあたしを見て、哲哉さんは一瞬時が止まったかのように固まった。
へ、変……?。
どうしよう、何か言ってよ。
「……か」
「か?」
「可愛いー! 似合ってるじゃん、うん、想像通りのイメージ……って」
そんな反応が嬉しくて、あたしは自ら哲哉さんに抱きついていた。
その瞬間、哲哉さんの体が少しビクッと反応した気がしたけど。
「ありがとう、哲哉さん」
哲哉さんがあたしの頭を優しく撫で始めた。
あたしの心臓は、確かにドキドキしている。
だけど、それよりも落ち着いて安心できる、そんな感情が勝っていた。
「よしっ、じゃあ出発しようか」
「うんっ!」
そして、あたしたちは歩いて警察署へと向かい始めた。