時のかけら
その言葉にパッと顔をあげた哲哉さんは、
「せっかくルリが作ってくれたのに、食べないなんてできない!」
と言って、大きな口を開けて卵焼きを口に頬張った。
……嬉しかった。
美味しそうに食べてくれることが。
時間がないのに残さず食べてくれることが。
「ごちそうさまでした!」
あっという間に食べ終わると、律儀に流しまで空になったお皿を持っていったんだ。
「それにしても、どうやって起こしたの?」
「あっ……と、足の裏を触って」
「えっ? 俺それで起きたの?」
洗面台で手を洗い流す音と哲哉さんの声が入り交じって聞こえる。
「うん」
「そっか……。じゃあ明日からも起きなかったら、それで起こして! 頑張って起きるように心掛けるけど」
部屋に戻ってきた哲哉さんは、あたしの顔を見てニッコリ微笑むと、手の平に銀色に光るものを落としてきた。
これって……
「合鍵。家のこと頼んだよ、奥さん!」
「お……おっ……」
「アハハッ、動揺しすぎ〜、まぁ可愛いけどね!」
あたしの頭をくしゃっと撫でながら歯の浮くような台詞を言った。
「もうっ、人のことからかってる時間なんてないでしょ!」
「あっ、そうだった! じゃあルリ、何かあったら携帯に連絡してな」
バックの中から紙とペンを取り出し、スラスラと書くとその紙もあたしの手の平の中にうずめた。
「いってきます! ルリはのんびりご飯食べろよー。あっ、明日からは一緒に食べような!」
爽やかな笑顔を残して、哲哉さんは家から出て行った。
少し開いたままのドアから体を出し、車に乗り込む哲哉さんに向かって、
「いってらっしゃーい、あなたー!!」
と叫んでみた。
あっ、ドアに頭ぶつけた……クスッ。
哲哉さんも動揺しちゃって、可愛いよ。
そんな感じで月曜日の朝は慌しく過ぎていったんだ――……。