時のかけら

哲哉さんを送り出す瞬間。


あたしが一番寂しくなる時……。




「じゃあ行ってくるね!」




そう言いながら、毎日のように頭をくしゃっと撫でてくれる。


あたしはそれが嬉しかったりする。




「いってらっしゃい!」




寂しい気持ちを我慢して、笑顔で哲哉さんを送りだす。



本当は一人でいるのが寂しくて仕方がない。




「そうだ。明日仕事休みだし、どこか行きたいとこ考えてて?」




そんな哲哉さんの言葉に、沈んでいた気持ちが一気に明るくなった。


あたしって意外に単純?


哲哉さんの言葉に一喜一憂して。


まるでコドモみたい……。



ドアの前で走り去っていく車が見えなくなるまで見届けて、あたしは部屋へと戻っていった。



部屋の中には、まるで同棲しているかのようにお揃いのものが増えていた。



お茶碗にお箸。


お皿にマグカップ。


歯ブラシ。


クッションに枕。




哲哉さんと出会った翌日の日曜に、一緒に買い物に行って買い揃えてもらった。



他にも、バッグや財布、下着にパジャマ、服に靴、小さな衣裳ケース。



あたしが哲哉さんの部屋で生活する上で、不便のないくらいのものを与えられた。



そのお金の使い方は半端じゃなくて、こっちが気が引けるくらい……。



いいって言ったって、必要だからってレジに持っていったし。


ちょっと強引。


だけど、すっごく優しい……。




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