時のかけら
「多分、ルリ……」
「多分って自分の名前なのに。まるで分からないみたいじゃん!」
冗談っぽく笑いながら言う彼に、あたしはただ黙って俯いていた。
「えっ? まさか……」
彼の声がみるみる真剣な声に変わっていく。
「まさか……ね。記憶ない、とか言わないよね?」
あたしは顔を上げ、不安そうに見つめる彼の顔をしっかりと見据えて口を開いた。
心から笑えない訳。
頭の中にある疑問。
「思い出せないんです」
一呼吸間をおいて、彼に告げた。
「あたし、記憶がないんです」