時のかけら
「今日は活きのいい鰺が入ったんだよ。どうだい?」
「ん〜、安くしてくれますか?」
「ハハッ。若奥さんの頼みじゃ仕方ないな〜。よし、おまけもつけてあげる!!」
「ありがとうございます!」
あたしは夕飯のメニューを考えながら、鰺の入ったビニール袋を受け取った。
哲哉さんの前でしか出せなかった笑顔も、少しずつ出るようになってきていた。
商店街の人たちは、親しみやすくて温かい。
一度哲哉さんと来ただけなのに、顔を覚えてくれていた。
それに……
家族のように話しかけてくれる。
ここの人たちはちょっと哲哉さんに似てる?
だからここは、哲哉さんが仕事に出かけている時、唯一あたしが笑顔になれる場所だった。
「哲哉もいい子見つけたよな」
「アハハッ……」
「前の彼女は最悪だったもんな」
「……えっ?」
あたしの耳に不意に聞こえてきたのは、今まで頭の片隅にもなかった単語だった。
哲哉さんの……
元カノ?