時のかけら
「こら、あんた何言ってんの!!」
店の奥から聞こえてきた声の後、その場に豪快な音が鳴り響いた。
そう、スリッパで思いっきり叩かれた時に出るような音。
頭を押さえ少しの間フリーズしていた魚屋のおじちゃんは、ハッとするとゆっくりと後ろを振り返った。
そのままクルッと顔を戻してあたしに向かって苦笑い。
「人の悪口なんて言うもんじゃないよ!」
低くドスのきいた声で、魚屋の奥さんは睨みをきかせ、おじちゃんの頭をグリグリしながらあたしへと視線を移した。
「ごめんね〜っ。この人の言ったこと気にしないで」
「あっ……。大丈夫です、気にしていませんから」
慌てて両手を振り、気にしていない素振りをみせた。
本当は喉から手がでるほど気になっているというのに……。
「ならよかった。……本当にね、あの娘はひどかったわ。何で彼があの娘を選んだのか不思議で仕方ないわよ」
首を傾げながらしみじみと哲哉さんの元カノのことを言う魚屋の奥さん。
「おいっ! おまえも言ってるじゃないか」
……確かに。
形勢逆転した二人の関係に、今度は魚屋の奥さんが苦笑い。
何だかそのやりとりが面白くて、あたしは吹き出しそうになった。