時のかけら
「あらっ、やだ。ごめんなさいね、ホホホッ」
それだけ言い残し、魚屋の奥さんは逃げるようにそそくさと店奥へと去って行った。
その後は何だか気まずい空気が流れて沈黙――。
腕を組んで聞こえないくらい小さくため息をつく魚屋のおじちゃんに、何て言葉をかけていいのか分からず目線を下げた。
本当は聞きたいのに。
何で?
何でこんなにも哲哉さんの元カノが気になるんだろう。
なぜか心の中にポッカリと穴が空いたような、そんな気分になった……。
「あっ……お金」
片手にぶら下げていたビニール袋を見て、まだお金を払っていないことを思い出した。
あたしは慌てて財布を取り出そうとバッグに手をかけた。
「あ、今日はいいよ。奢りだ、奢り!」
「いや……でも……」
「何だか嫌な気分にさせちゃって悪かったね」
「あ、いえ……そんなことないですよ」
鰺の代金を右手で差出し、必死に自分を取り繕って返答をしてみた。
だけど魚屋のおじちゃんは首を横に振るばかり。
申し訳なさそうな顔であたしを見て小さく呟いた。
「そんな顔させてしまってごめんな」