時のかけら
あたしは何で……。
あの場所であの時間、あのベンチに座っていたんだろう。
何で記憶がないんだろう。
辺りを見回してもまったく知らない場所。
思い出そうとすると……
頭痛がする。
だけど……彼。
“衣笠哲哉”さん。
なぜか懐かしい気がする。
何で?
……あたし、
彼を知っているのかな?
それに、記憶がないと言ったって、まったく覚えてないわけじゃない。
記憶の片隅にあるもの。
あたしを呼ぶ男性の声。
「……ル……リ」
って。
頭の中でノイズのように聞こえてくる。
あたし……この人と付き合っていた。
この声を聞くと胸が苦しくなる。
愛しい気持ちが溢れてくる。
だけど、顔も名前も思い出せないんだ……。
聞こえてくる声だけ。
あたしをルリって呼ぶ声だけ。
……それともう一つ覚えていること。
もうすぐ、18歳。
何で?
そんなことを鮮明に覚えているんだろう。