時のかけら
「よかった、まだ帰っていないみたい」
駐車場に哲哉さんの車がなくてホッと肩を撫で下ろす。
合鍵でドアを開けると、部屋は電気も点いていないので真っ暗だった。
電気を点けて明るくしても、閑散とした部屋は何だか物寂しい。
「ただいま〜」
って誰もいないんだけどね。
つい、言ってしまう。
もちろん返事が返ってくるわけもなく、だからと言って哲哉さん以外の声で返事が返ってきても怖い。
それこそ「おかえり〜」なんて声が聞こえてきた時には、絶対に腰を抜かしてしまう。
考えていたらゾッとしてきて、慌てて靴を脱いで急いで鍵をかけてチェーンをした。
一人は嫌……。
暗くなるにつれてその思いは増していく。
それでも哲哉さんがここに帰ってくると思うだけで、心中少しだけ穏やかでいれる。
哲哉さんが帰ってくるのが待ち遠しくて仕方がない。
これじゃあ旦那の帰りを一人寂しく待っている妻みたい……
なんて思いながら、さっき買ってきた食材で夕食の準備を始めた。