時のかけら

程なくして料理は出来上がり、壁にかけてある時計を目にした。




「もう8時……」




いつもだったらこの時間には帰ってきているのに……。


哲哉さんは携帯を持っているんだから連絡手段がない訳ではないけれど、少し遅いくらいで電話をかけるのも気が引ける。


それに……
真っ暗になった外に出て、公衆電話まで行くのも怖い。



こういう時あたしが携帯持っていれば、軽い感じで“今日は遅くなる?”なんて聞けるんだろうな。


そんなことを思いながら料理が冷めないように鍋に蓋をして、ダイニングから部屋へと戻っていった。



何かをしていないと、どんどん思考が悪いほうに進んでいく。


そう思って部屋の中を見渡した。


静かな部屋に音を鳴らすとすればテレビがあるんだけど。



そう言えば哲哉さんの家でテレビを点けたことってないよなぁって思った。


テレビを点けて見ていると、一人ということを痛感するような気がして……。


リモコンにさえ手を伸ばしたことがなかった。





< 73 / 135 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop