時のかけら
・彼と過ごす夜
「おかえり、哲哉さん!!」
覗き穴で確認した姿は、予想通りあたしが待ちわびていた人。
急いでチェーンを外して鍵を開けて声をかける。
「ただいま!! 遅くなってごめんね……」
「仕事だから仕方ないでしょ? そんなことより、早く部屋に入って!!」
申し訳なさそうな顔色を浮かべる哲哉さんの手を取って、笑顔を向けながら引っ張っていった。
一人で寂しい思いをしていたなんて言えない。
ううん、言わなかった。
疲れて帰ってきた哲哉さんを笑顔で迎えたい。
「帰ってきてよかった」って思えるような場所でありたい。
そう思ったから、口をつぐんで本心を隠した。
「あれっ? ジグソーパズルしていたんだ」
「あ、うん。まだ手をつけていなかったし、暇だったからしてみようかなぁって思って」
「フフッ、途中で挫折しないようにね」
「えーっ、それを哲哉さんに言われたくないし!」
「アハハッ、うん、そうだよね〜!!」
豪快に笑い飛ばしながら、哲哉さんはバッグを床に置くとネクタイを緩め始めた。